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想いを言葉にかえられなくても
【学園物 官能小説】

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想いを言葉にかえられなくても《アラベクス》-8

 そう。…待たせ過ぎたのは俺の責任。今更現れて…。苺が戸惑うのも無理は無い。泣かれても仕方ない。避けられても、逃げられても仕方ない。

 …だけど………

 振り向くと恭介が笑っていた。まだ間奏の部分…曲はあと3割くらい残っている。
「行ってやれよ。んな泣きそうな顔すんなって。……ほらマイク貸せ」
 ピアノを弾く手を止める。吹奏楽部の伴奏は気付かずに曲を奏でている。
 『早く行け!』口パクでそう急かされ、俺は舞台を駆け降りた。
 背中から恭介の声が聞こえる。
「卒業おめでとう!これから吹奏楽部によるサプライズライブだ!!楽しんでいこーぜっ!」
 俺が居ない事を察知して、曲がさっと変わる…テキーラが軽快に流れ出した。


………………
 急いで体育館を出て中庭を走る。さっき出たばかりだ、まだそんなに離れていないはず。
 …もう二度と離さない。そう決めたんだ。たとえ拒絶されても、自分の気持ちを伝えなくては。これが俺のエゴだとしても、俺には『約束』を果たす義務がある。
 ずっと夢見てきた、この六年を無駄にはしたくない…!

「っはぁ、はぁっ…苺ッ!逃げんなよ、苺ッ!!」
 校舎に隠れた人影に向かって声を張り上げる。苺かも知れないし、違うかも知れない。だけど…数秒後に校舎から姿を見せたのは、紛れも無く苺だった。
「っはぁ、はぁ、苺…頼むから話、聞いて」
 久方振りに見た苺は…やっぱり小さかった。
 肩口で揺れる外はねのセミロング。リクルートスーツに包まれた身体は、やはり頼りなく細い。うっすら化粧を施しているが、あの頃の面影がハッキリ残ってる。
「苺…」
 10m、5m、3m…段々と歩み寄る。苺の表情が読み取れる距離まで歩みを進めた。
「聖…」
 六年振りに自分を呼ぶ声に身震いする。妄想や夢なんかは比じゃない。これが現実…今が『約束』の時。
 言葉にすべき事は沢山あるのに…喉がカラカラで言葉が紡げない。走って来たせいでは無い…俺は、今…物凄く緊張してる……。
「苺……あの、な…」
 一緒に付いて来てくれ…?違う…

 結婚しよう…?違う…
 歌どうだった…?違う…
 どれも違う…俺の言いたいのは…

「聖、お帰り。」
 …そうだ、俺の言いたかった事は…

「ただいま…苺。」

 そう…俺は、苺の元に…今、帰って来たんだ。六年間、苺の元に帰る為に頑張って来たんだ。
 この笑顔が見たくて。この小さな身体に触れたくて…。
 手を伸ばすと苺の小さい身体に手が届いた。拒絶の反応は無い。恐る恐る近寄って、思い切って抱き締めた。
 六年振りなのに…初めての様な…そんな、ぎこちない抱擁だった。

「やっぱり、聖はあったかいね…。」
 頬を苺の頭にすり寄せる。微かに泣いている様子だった。
「苺…?」
 みぞおちの辺りに苺が頭をグリグリと潜り込ませる。少し苦しいけど、懐かしい。だってこれは、苺の愛情表現の一つだから。
「い〜ちご?俺、帰って来たんだよ?」
「……」
 グリグリと潜り込ませる行為は一向に止まらない。
「苺…お前、泣いて…」 言いかけた途端、パッと俺を見上げる。
「ね、聖。行こうか?」
「へ?」
 思い付いた様に身をひるがえし、俺の手を掴んで歩き出した。
 全然変わって無い、その行動パターンに笑ってしまう。そして…やっぱり俺も昔と変わらず、苺に引っ張られるまま後ろを付いて行った。


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