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想いを言葉にかえられなくても
【学園物 官能小説】

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想いを言葉にかえられなくても《アラベクス》-2

………………
 カッカッカッカッカッ…
 ボールペンでテーブルを叩く音が響く。テーブルの上には数枚のルーズリーフ。どれにも文字が乱雑に書き込まれている。
 ここは、とあるテレビ局の食堂。ガラス張りの壁面からは西日が差し込んでいる。無機質な掛時計を見上げると…まだ六時。夏の陽は長い。
「おっ、聖二。頑張ってるじゃねぇか。」
 声のする方を見ると、紙コップを片手に持った小太りで髭面の男…朝日(アサヒ)監督が歩み寄って来た。
「んで、出来たか?作詞の方は。」
 朝日監督は俺をここまで大きくした…と言っても過言でない。
 中3の時にスカウトされ、今でも続けているMEN’S雑誌『Mr.』のモデルをしていた頃に知り合い、意気投合。気付けば舞台、CMと確実に大きな仕事を任される様になったのも、彼が仕掛ける作品に俺がピッタリと当てはまったからだ。
 あれから五年。ドラマに進出した監督と共にドラマデビューを果たした。今、二作目を撮っている最中なのだが…。

 数枚のルーズリーフの中から一枚取り上げサッと目を通す。俺は久しぶりのデスクワークに痛くなったこめかみを押さえた。
 そう…今、取り掛かっているのは朝日監督の2作目のドラマ『月に溺れる花』の挿入歌の作詞だ。
 歌なんて…と、しり込みしていたが作曲者も決まり、引くに引けない状況のまま今に至る…と言う訳だ。

「ふむ……。例の彼女か?」
 しょりしょりと伸びた無精髭を撫でながら、朝日監督がにやりと笑った。
「……はぁ。分かります?」
「バレバレ」
 恥ずかしくなってテーブルに顔を伏せる。ひんやりと冷たく、食堂独特の消毒液のにおいが鼻をつく。
「忘れらんねぇのか?ヤダねぇ。若いくせに。一途な事で。」
 肉厚な手がぐりぐりと頭を撫でる。頭の上でケラケラと笑っているのがよく分かる。
「どんだけイイ女なんだか。見てみたいなぁ。お前の忘れらんねぇ田舎の女っつーのに。」
 がばっと顔を上げて辺りを見回す。この話は監督と俺の間だけの話だ。キャッチされたら翌日のスポーツ紙を賑わす事になり兼ねない。
「朝日監督。不用意な事はあまり言わないで下さいよ。この前なんか本当に大変だったんですから。」
 小声でいうと「悪かった」と監督が舌を出した。
 そう、つい先日にスタッフも一緒に食事会をしたのに、キャッチされたた。
 会計を済ませようとした俺とグラビアアイドルが写真週刊誌にでかでかと掲載されたのだ。相手の名前も出て来ない程なのに『熱愛』と報じられ酷い目にあったばかりだ。
 最近やっと落ち着いた。気掛かりなのは苺にどう伝わったか…それだけ。完全否定はしたが、離れている分不安がつのる。もう二度と不用意な行動は避けたいのだ。

「ん…でも。この詩、いいんじゃねぇか?後は作曲担当の神代と打ち合わせして絞っていけば。」
 神代(カミシロ)と言うのは朝日監督の旧友で、音楽プロデューサーと言う肩書きを持つ業界人。
 舞台は全て揃っている。ロマンティックなシーンの甘く切ない恋心を歌うバラード。俺に出来るのかは疑問だが…後には引けない。やるしかないんだよなぁ…。

「とにかく頑張れ。売れるドラマになる様に俺も頑張るからな」
 ぽんっと肩を叩き、持っていた紙コップの中身を飲み干した。
「んじゃな。明日の朝一の撮影、遅れんなよ」
 クシャっと紙コップを潰してゴミ箱へと投げ捨てた。そして重い足音を残しながら食堂を後にして行った。


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