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おはよう!
【純愛 恋愛小説】

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おはよう!-2



「私、今年で鼓笛隊を卒業するよ」


春の綺麗な夕日が頬を照らしながら沈んでいくのを見ながら、長い黒髪を揺らしながら歩く少女は言った。
隣で少女と同じように歩く少年へと向けられた言葉だ。
重たい楽器ケースを背負いながら歩き、前を見続ける少女へ驚いた表情を隠すこともなく、少年は口を開けた。

「・・本気、か・・?和音」

その声が知らず震えていることを、気付いている少女・・高崎和音はそこでやっと少年を見た。小さな微笑みを浮かべると、頷いた。

「本気だよ。」

和音の様子から、嘘を言っている訳ではないと分かった少年は右肩にかけているバッグの肩紐を強く握り締めた。頭の中は質問だらけでいっぱいのようで、口がずっとパクパクしている。自然と歩幅も小さくなってきている。
やっと、まず最初に問う質問を決めた頃には、少年は足を止めていて、三歩分の距離が空いていた。

「・・なんで?」
「なんでって・・私、もう高3でしょ?鼓笛隊は学生だけで編成されてるんだから、卒業は当たり前じゃない」
「そんなの、みんながみんな守ってる訳じゃないだろ・・!?ずっとやってる奴だっているじゃねえか、優羽さんとか!」
「あの人は指導者の役も担ってるからって、奏多も分かってるでしょ?」

口調を荒げた少年・・藤堂奏多に、呆れながらも律儀に質問を答えていく和音。
答えてはいるものの、奏多がここまで自分の卒業について驚き、戸惑っている理由が分からなかった。一緒に駅まで帰る仲ではあるが、そこまで仲が良い訳でもない。
この少年と仲良くなったのも、最近のはずだった。



和音は、鼓笛隊『music familiar』に所属している。担当楽器はホルン。
この鼓笛隊は学生で編成されていて和気あいあいと夏の大会に向けて練習をしている。
一昨年に結婚をすることになったと、金管担当の指導者がヒカリから卒業をしていた松樹優羽へ変わって、新しい体制が取られた。
新しいメンバーも加わり、年齢が隊員の中でも上に位置していた和音も面倒を見ることが余儀なくされて大変だった。何より、指導方針が変わってしまって何をすればいいのか、何も分からなかった。混乱ばかりして、金管楽器チームの統制どころか自身の練習すら出来ない状況にまでグチャグチャになってしまった。
そんな中、手伝ってくれたのがスタッフでもあり、元スネアを担当していた隊員であった奏多だった。
スタッフとして鼓笛隊に何度も出入りしていたのは知っていたが、スネアチームの面倒を見るばかりであまり金管楽器のメンバーと面識がなく、関わってこなかった為に話したことが無かった。
何より、奏多の見た目が関わろうという気を失くす。
少し長めに伸ばしたくせ毛の茶髪、ダボっとしたような服装、口調の悪さ、明らかに不良っぽくて和音はあまり好きではなかった。年齢が幼い隊員が悪影響を受けそうで。
そんな見た目とは裏腹に、なかなかの行動力と面倒見のよさを持っている事を知ったのはやっと金管楽器担当チームのゴタゴタが収まってきた頃だった。
手伝って貰っていた当初は自分たちのことで手一杯で、「なんだこいつ」と思っていても手伝ってもらうしかなく、その人物像までも良く見ていなかった。
が、手一杯だったことが落ち着き、余裕が出てくるようになると視界が開けて、見られなかったモノが見られるようになる。
その時に、気付いた。
確かに、見た目は悪いがそれだけで人を判断すべきではないと改めて自分に教えられた気がする程、藤堂奏多という人間の中が見えた。
これでは、スネアの子達も頼りにするわけだなと和音は思った。

それから、少しずつ話していくと、まず自分の一つ年下だということを知った。
次に、利用している駅が同じで、練習場所から駅までの道のりが同じだということ。
それが分かってから、二人は自然と一緒に駅までの道を帰ることをしていた。
他愛もない話をしながら、ゆっくり歩く。
別に早く歩けるのだが、奏多の歩くペースが遅いので仕方なしに合わせている。
そんな無理も別段嫌ではなくなった時には、もう二年が経過していた。





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