１１．転獄-6
「……何を訳の分からない事を言ってるんだ、とにかく彼女は、関係ないだろ」
「関係なくねえよ。俺たちゃ今日は、金とるだけじゃカワイソーだからよ。社長さんにイイ事教えてやろうかと思ってな」
「ヒャハッ」竜二が奇妙な声を上げながら「心配すんなって。レイプにはなんないかもしれねぇしよぉ。……なぁ？ 悠花ちゃん？」
最後は悠花の方を向いて言う。
「何言ってんのよ」
「トボけんなよぉ。一週間前この場所で、もんのスゲぇことしてたくせによ？」
やはり、この男たちは知っている――。何故？
竜二がわざと肩を揺すってゆっくりとしたガニ股歩きで、壁を背負ってもう後退できない悠花に徐々に近づいてくる。
「けっ。よくもまぁ、村本なんていうキモ男なんかとあそこまでできるよなぁ？」
「村本……？」
「何、キョトンとしたフリしてんだよぉ？ あぁ？」
「意味わかんないし。誰よ」
悠花は本当にこれまであの男の名を知らなかった。だが、竜二が迫っている内容に身に覚えがある以上、村本とはあの脅迫男であるということが簡単にわかった。これ以上言わないで、と叫びたかった。バゼットを傷つけずに、恋人のままで目の前から去りたい。何故まさにそうしようとしているタイミングで彼らに囚われてしまったのか。
「おい」ベッドから二人の様子を拝覧していた健介が竜二に声をかけた。「本当に村本って名前を知らないらしいぜ。まあ、アイツが名前をカタってたのかもしれねえがな」
健介は悠花の表情から、男の素性を知らないことを簡単に見抜いていた。一週間前、後を追けた時の悠花の様子、ラブホテルでのセックスを盗撮した時の悠花の言動、いずれをとっても悠花が村本に抱かれることが全く本意ではないことが分かる。それでもあんな村本が瀬尾悠花という世間に持て囃される芸能人を情欲を意のままにできるのは、何か弱みを握ってのことに違いないとまで見通していた。
「ギャハッ……、おキレイなモデルさんのくせに、誰かも知らねぇ、ああいう汚ねぇキモ男とエッチしまくるのが好きなんだなぁ？ ド変態じゃねぇ？」
「訳わかんないっ！ 気持ち悪いからやめてよっ！」
竜二はすぐ先まで近づいていた。このままだと犯される。それだけではない、バゼットの前で裏切り行為を暴かれてしまう。そっちの恐怖のほうが強くさえあった。悠花は竜二の脇を一瞥する。その向こうには出口があった。
バゼットはどうなる？ いや、バゼットも自分が男たちの汚辱の手から助かることを望んでいる筈だ。きっとバゼットなら……。
悠花はやおら壁から離れて、出口を目指して竜二の脇をすり抜けるように駆け出した。しかし数歩目で竜二が素早く反応して差し出した脚に躓き、
「あっ……！」
と声を上げながら何とかバランスを保って転倒を免れたが、その隙に竜二に背後に回られ二の腕を強く掴まれて引き寄せられていた。
「いたっ……」
「へへっ……、つーかまえたっ。よぉ、逃げようとするなんてなかなか根性あるじゃねえか」
悠花の腕を全力ではない一方で、気遣いも微塵もない力で背後にねじり上げ立ち姿のまま背後から拘束される。
「おいっ！ やめろっ！」
バゼットの叫びも虚しく、悠花は竜二に背後から締め上げられながら部屋の中央まで戻されてきた。
「……近くで見るとたまんねぇなぁ。たっぷり犯してやるからよ？」
「やめて……」
耳元で囁かれて、歯向かう表情を浮かべながらも声は恐怖で震えていた。
「好きなんだろ？ エロいことがよぉ。……村本みたくキモくはねえからタイプじゃない？ ギャハハッ」
「そ、そんなこと、好きなわけないっ……！」
「おいっ！ 頼むからやめてくれ！ 彼女にだけは、何もするなっ！」
しきりに叫ぶバゼットの方へ目を向けた竜二は、
「……社長さんは知らねえのかもしれねぇけどよぉ？ 悠花ちゃんてば、相当の変態エロ女だぜ？ なんつったって、ガキの頃から出会い喫茶でオヤジ引っ掛けて金貰ってたくらいだからよぉ？」
（……！）
やはり、今背後から自分を捉えているのは、あの日に店で受付をしていた男、翌日悠花が制服を返しに行った時パトカーに押し込められていた男だった。
「……なーんか見たことあるって思ってたんだ。一昨日になってやっと思い出したぜ。俺がパクられた前の日だしよ、バツグンにカワイイ子だったから、頭に残ってたんだよなぁ」
「何それ？ 何言ってるのかわかんないし。いいから離してよっ！」
竜二はバゼットの前で悠花の何をも隠すつもりはないようだ。全てを暴かれそうになって悠花は殊更に強気に、力の限り身をよじって竜二から離れようとする。