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ボールと家族とワールドカップ
【家族 その他小説】

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忘れた物を取りに-1

【忘れた物を取りに】

「誰か同年代でサッカーかフットサルをやってる知り合い居ないか?」

決勝戦のカードが決まった日、少しはボールのコントロールができるようになった私は、顔の広い会社の同僚に聞いてみた。

「どうしたんだ。いきなり」

「ちょっと知り合いが興味有るみたいでね」

「まさか、それってお前じゃないよな?」

「はは、まさか」

「そうだよな」

何故か同僚は安堵の表情を浮かべた。

「で、そんな人居る?」

「確かあの人がそうだったかなあ。今度会った時に聞いてやるか」

同僚の頭に誰か浮かんだようだ。

「ありがと、頼んどくよ」

まだまだ自分に自信が無いから、それが自分だとは恥ずかしくて言えなかった。狡い自分はこんな時にも保険を掛けてしまう。



麻衣も知美も毎晩のように付き合ってくれた。

そして遂にワールドカップの決勝戦前日の夜を迎えた。そう麻衣との賭けが、今夜が最後のチャンスだった。

しかし、私の中では既に麻衣をカナダへ連れて行くとかの問題じゃなかった。

私は今後の人生をこの50回に賭けてみるつもりだった。

世界には明日のワールドカップの試合結果で、人生が大幅に変化する人も多いことだろう。

しかし私はその前の日、例えその人たちに比べればホンの僅な事だろうが、一足先に人生を変化させてやると思った。

「じゃあ、始めるか」

準備運動が終わり、私は目の前に置かれたボールの上に左足を乗せた。

小技は左足、シュートは右足。小学生の頃の得意だった事を思い返した。

ボールを踏んだ左足を後ろに引いて、体に向かって引き寄せる。

引いた勢いのまま、向かって来るボールの下に爪先を滑り込ませ、そのまま膝の高さまでボールを軽く浮かせた。

直ぐに落ちるボールを、同じ足を使って、ちょんと蹴りあげた。

「1…」

フワリと宙に浮かんだボールは、腰の高さになると一瞬静止し、一拍も置かずに重力に引き寄せられて落ちて行く。

ボールが地面に着く前に、素早く右足を出して、ボールの真下を軽く蹴り上げた。

「2…」

出だしは上々だった。

「3、4、5…」

カウントは知美が引き受けてくれていた。

「もう少し高く!回転が掛ってる。指先伸ばして」

一球ずつ状態を見ながら注意を与えるのは麻衣の役目だ。前日には1回だけ40回を超える事が出来たが、その後は気負いが勝ってしまい20回と続かなかった。

「11、12、13、14、15…」

麻衣の励ましを聞いて、悪いイメージを払しょくさせようと思った。


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