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波と風
【その他 官能小説】

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波と風-2

(2)


 『早まったことですって?それはちがいますよ。ぼくは少しも早まったとは思っていませんし、その時も考えませんでした。セックスを愉しんだんですよ。そうですよ。あれこそ仕方がなかったというのでしょうね……』


「二人だけの生活、あんまりないわね。すぐ三人になっちゃう」
「そうだな……」
「だから、いまのうちにいっぱいしましょう?」
「何を?」
女は顔を寄せて小声になった。
「セックス……」
作ったような妖艶な笑みを見せながら言った。
「あなたの好きなこと、してあげる。……なんでも」
彼のための笑顔だと思った。
彼は黙って目を閉じ、無言で応えた。
『たしかにね。そういうことになるのかね。しかし、どうしたものだろう。何がって言われても困るんだが……。後悔はしていないつもりだけど、少しだけショックはあったね。あのことを知った時には。だからって、別に。……しかし、どういうものだかね。どうしたものだろう……』

 憎悪が欲望を呼ぶことがあるのだろうか。
ある時、突然かっと熱くなって女をホテルに連れ込んだ。
「乱暴しないで」
彼は無言で女の下着だけを剥ぎ取った。
「シャワー浴びるから」
身を縮める女の脚を無理やり開いて押し込み、打ちつけた。
「横向きにして。おなかが」
夢中で突き、女の滂沱を踏みにじった。悲しいセックスを知った。


 なにげなく、自分はあと何年生きられるのだろうと考えたりした。
(子供を背負って……)
自分はまだ何もしていないじゃないか。
 あの女よりもっと素晴らしい女が現われるかもしれない。きっと現われる。でも、そんなことはどうでもいい。……

「君はあいつを本当に愛してくれているのかね?」
「それは、もう……」
「それならいいけれど。別居だとか離婚だとか、もめ事になると結局不幸は女だから」
彼は憤慨して黙ってしまった。自分でも制御出来難いほどに頭に血がのぼった。
『そんなことはわかっていますよ。ぼくがそれほど無分別とでもお思いですか?』

 初め、友人の一人が彼女を誘って出かけていた。その頃には女に特別な感情を抱いてはいなかった。だから友人を羨ましいとも女を美しいとも思わなかった。
 ある時、友人が言った。
「だめだな、あの女は」
「だめ?」
「堅くてさ」
「何かしたのか?」
「やってしまえばこっちのものさ」
「じゃ……」
「キスもさせやがらねえ」
気持ちの動きが微かにあった。

 その日から女に視線を注ぐようになった。それは同情でもなかったし、愛情とも言えないような気がした。ただ、純真な印象が彼を惹きつけたのはたしかなことだった。やがてそんな彼の目を女は意識して受け止めるようになった。


「好きだったんだ、前から」
「うそでしょう?」
「うそじゃない」
「付き合ってる人、いるんでしょう?」
「いないよ。好きだったんだ。アイツがいたから黙っていたけど」
彼は女を抱き寄せて囁いた。物になる……そう感じた。
「好きなんだ」
唇を寄せると目を閉じた。睫毛が長かった。女は彼の腕を掴み、力をこめた。

 彼は満足だった。友人と顔を合わせると滴るほどの優越感を味わった。友人は何も知らなかった。

 親しくなっても女はわがままなことは言わなかった。従順で大人しかった。それが彼の気に入った。

 ある日にはサイクリングに出かけた。彼がスピードをあげて距離を引き離すと、女は半分泣き出しそうな声で彼を呼んだ。方々に隠れて女を驚かせた。女がすねても抱擁で終わりを告げた。

 妊娠を知らされた数日後、女は心細い声で言った。
「産む時、痛いのかしら……」
「それはそうだろう」
「怖いわ……」
「仕方がないだろう、女なんだから。場合によっては帝王切開なんかもあるし」
「切るのね……」
「しょうがないさ。……怖いなら……」
少しして、
「やめましょう」と言った女の目は光っていた。

 女はよく、
「どこかへ行きましょうよ」
窺うように言った。
目的は気分転換ということで、それほど女には彼の顔が陰気に見えたのかもしれない。しかし彼はいつでも一つの店で長い時間、無闇に煙草を吸っていた。女は不機嫌な彼を祈るような面持ちで見つめていた。

 煙草の煙の中で彼は低い声で言った。
「出しゃばる女って、いやだな」
女は真剣な顔で頷いた。
「女はやっぱり男には勝てやしないんだ」
「そうね。男の人にはかなわないわ」
「それに、口先だけで理屈っぽいんだな」
「ええ……」
女は聞き入っている感じで返事をした。彼は口を噤んだ。
 しばらくして、女はおずおずと訊いた。
「もうない?他には……」
「……何が」
「そういうこと」
「!……あるわけないだろう」
彼は微かに指が震えた。

 彼は自分をためらわせているものが何なのか、よくわからなかった。そしてそれはわかるはずはないと確信に近く思っていた。なぜなら、どこにも理由がなかったから。それはどこにもないのだと彼は空を仰ぎ見た。理由がない。どんな理屈を弄しても誰をも説得することは不可能だと思われた。


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