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姉妹
【女性向け 官能小説】

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姉妹-2

2.
 雅子は、ヒルトンホテルのドアを押してフォイヤーに入った。 右手がバーになっている。
 ウオールランプの灯りにすかしてテーブルを目で追っていくと、窓際のテーブルで啓介が手を振っている。
「啓介義兄さん、しばらくね・・・、お元気そう・・・」
「うん、僕はね。雅子ちゃんも元気そうで結構結構。相変わらずきれいだね。 悪かったね、わざわざ来てもらって・・・何飲む」
「啓介義兄さんはお決まりのジンロックね。じゃあ、あたしはジントニックい頂くわ」
 
 窓ガラスの向こうを、滑走路の照明を遮って、ジャンボの黒い機体が赤いランプを点滅させてゆっくりと横切っていく。
「で、姉さんはどうなの」
「医者は、今年いっぱいと言っている」
「姉さんから、子宮ガンを切ったって電話はもらったのよ。声は元気そうだったから、手術は上手くいったと思っていたんだけど」
「あっちこっちに転移していて、手が付けられない」
「あたし、休暇とって手伝いに行きましょうか、由美ちゃんのお世話も大変でしょう」
「うん、お願いって言うのはそのことだけれど、知ってのとおり日本の会社じゃ女房の病気でそういつまでも休んでいられないんでね。 由美が良く手伝ってくれてはいるんだけれど、高校受験も控えているし、正直言ってそろそろお手上げなんだ」
 
 幸子はもう覚悟を決めて、自分の家で死にたいといっている。 親戚身内も見舞いには来てくれるものの、泊り込みで世話をしてくれそうなものは居ない。啓介はかいつまんで状況を説明した。
「家を発つとき幸子が、幸子からのお願いということで、出来たら雅子ちゃんに東京に戻ってくれないか話してくれと言うんだ。 由美が生まれた時も散々世話になったけれど、君には一番ものが頼みやすいらしい。今のうちに、後々のことも頼んでおきたいと言っていた」
 俯き加減に、ぼそぼそと言葉を続ける啓介の顔は、頬がコケ、いつもの張りのある精悍さがない。
「無理はしないで良いんだよ。雅子ちゃんが、もうそろそろ日本に帰ろうかというような気でもあったら、考えてくれないかということなんだ」

 (大当たり!) 雅子が啓介から電話を受けた時の予感は、これだったのだ。 雅子は啓介の顔を見つめて、沈黙した。
「ブランデーでもどう?」
 啓介はウエイターに手を上げ、ダブルで2つとオーダーをした。

 「実はあたしも啓介義兄さんに相談したいことがあって、待ってたのよ」
 雅子は運ばれてきたブランデーグラスに口を付け、唇を湿した。
「結婚話なの。今の会社の社長、と言っても本社に帰れば部長なんだけれど、2年前に奥さんに死なれて大学生の娘さんと2人暮らし。 そろそろ本社に戻る話が出ていて、娘さんはシドニーに残り一人になってしまう。 それでわたしに一緒に日本に行って呉れないかというわけ。・・・悪い人じゃないし、調布に家もあって、まあそこそこの生活は出来るでしょう。 あたしもいつまでも呑気にしていられないし、啓介義兄さんが来ると言うので、とにかく相談してからと思ってお茶を濁しているのよ」
 啓介は一瞬困ったような顔をした。
「そんなこととは知らないで、余計なことを頼んじゃったね」
と明らかに気落ちのした表情を浮かべた。 かなり当てにしていた気配がうかがえる。
 「乗り気ってわけじゃないから、どっちでもいいのよ。 それより、義兄さんのところが大変だわ。 いずれにしても、とにかく急いで東京に行きます。ほかの事は、それから考えます」
 雅子の心臓は、啓介の頼みを聞いた瞬間から早鐘を打ち続けている。
(姉さんには気の毒だけれど、絶好のチャンス到来。 チャンスは、通り過ぎたら掴めないって言うじゃない)



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