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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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流行の服はお嫌いですか?-3

***

 ―― 仕立て屋にて、かなり時間がかかってしまい、アーウェンが家に戻ったのは、夜も遅くなってからだった。
 早くラクシュに会いたくて、扉を開けて駆け込むと、なぜかラクシュは玄関口に座り込んで鉱石を彫っていた。
 あやうく躓きそうになって、つんのめる。

「ラクシュさん!?」

 ラクシュは立ち上がるとローブの裾を払い、いつもと同じ無表情のまま、アーウェンにそっと抱きついた。

「……おかえり」

 抑揚のない声は、とても嬉しそうで、可愛らしく聞こえた。

「は、はははいっ! ただいま!」

 今すぐ押し倒したい衝動を必死で堪え、居間で荷物を降ろして、鉱石を取り出す。

「……ありがとう」

 大切そうに鉱石を受け取るラクシュへ、抱えて持ってきた大きな紙包みも差し出した。

「遅くなってすみません。これを作ってもらってて……」

「ん?」

 ラクシュが首をかしげて包みを開き、現れた二着の服に、目を少しだけ見開く。

「ラクシュさんの服、破いちゃいましたから」

 クロッカスとも懇意にしている仕立て屋の女店主は|蜘蛛女《アラクネ》で、人間のお針子より数十倍の速さで衣服を仕立てられる。
 彼女は以前に作ったラクシュのローブをちゃんと覚えていて、まったく同じものを即座に製作してくれた。

「ん……ありがとう」

 真新しい黒のローブを手に取ったラクシュが、満足そうに頷く。
 そして、もう一枚の服を広げて首をかしげた。

「ん?」

 既製品を仕立て直したものだったが、女性服に関する店主の講義を長々と聞かされながら、アーウェンが散々苦労して選んだのだ。

「それ、ラクシュさんに似合うと思うんですけど……気に入りませんか?」

「……」

 アップルグリーンの生地に、ベージュ色のレースとオリーブ色のリボンを飾った衣服を、ラクシュは無言で眺めている。
 背中と横のリボンで、サイズを多少は調整できるようになっており、膝丈のスカートは、薄く柔らかな布を何層も重ねてしたてあげられている。
 服と揃いのフードつきケープは、赤い鉱石のボタンで前を留めるようになっていた。
 店主が言うには、流行服は露出の高いものばかりでなく、こんな型の服も人気らしい。

「……」

 ラクシュが無言で服をテーブルに置き、やっぱり気にいらなかったかと、アーウェンは密かに内心でため息をついた……が。

「っ!?」

 ラクシュがいきなり、ローブを目の前で脱ぎ捨てた。

「ラクシュさんっっ!!??」

 何回も服を脱がせて裸を見ているが、唐突に露となった素肌に、アーウェンは顔を赤くする。

「ん……?」

 下着だけになったラクシュは、アップルグリーンの服に袖を通そうと、四苦八苦しはじめた。
 簡単に着れる貫頭衣ローブとは違い、少し複雑なつくりなので、どうやって着るのかわからないらしい。

「えっと……確か、こうやって着るそうです」

 女性の着替えを手伝っていいものか迷ったが、見かねた末にアーウェンはホックの位置を教え、リボンを結んだ。

「ん」

 感心したようにラクシュが頷き、何層にもなった薄いスカート布を指先でつまむ。
 仕上げにケープのボタンを留めると、真っ白な髪と赤い瞳をもつ、お人形のような愛くるしい姿になった。

「う、わ……」

 アーウェンは顔を赤くしたまま硬直する。

「ん?」

 首をかしげたラクシュに、気の利いた褒め言葉でもかけたいのに、うまく言葉が出ない。
 ラクシュを抱きしめて、昔は闇色だったという髪へ口付けた。

「ラクシュさん……」

 伝えたいことがあるのに、それ以上の声が続かない。

 キルラクルシュを失った吸血鬼たちは、人間たちの思わぬ反撃に慌て、きっと仲間の一人を、彼女の偽者に仕立てたのだろう。
 黒い仮面をつけた偽看板のこけおどしで、人間たちを追い払えると思ったのかもしれない。

 だが、アーウェンが伝えたいのは、そんなことではない。
 いずれ耳に入ってしまうだろうが、彼女は故郷の崩壊を、絶対に喜んだりしないだろう。

「ラクシュさん、俺は……」

 もしも、逃げ延びた吸血鬼がラクシュの居場所を突き止め、もう一度助けてくれと頼んでも、絶対に渡さない。
 万が一、討伐隊に正体がばれても、全力で守って見せる。


 ―― 人間も魔物も……世界の全部を敵に回しても、俺はずっと、貴女の傍にいたいんです。


「アーウェン?」

 腕の中で、モゾモゾとラクシュが首をかしげる。
 うっかり抱きしめる力が強すぎたのに気づき、あわてて離れた。

「す、すいません! その……すごく、可愛いです!!」

 可憐な装いに改めて見惚れ、愛おしさがこみ上げてくる。

「つぎの曇りには、鈴猫屋に行く予定でしたよね!? その服、せっかくだからクロッカスさんにも見せてあげましょう! 危ないから、近づきすぎちゃダメですけど!」

 しかし、浮かれ気分全開で告げると、ラクシュはさっと横を向いて、首を振った。

「ダメ……いつもの、ローブにする」

「え?」

「これ、好き……でも……無理、なんだ」

 ラクシュはチラっとアーウェンへ視線を向けると、いそいでまた逸らし、硬く目を瞑ってしまう。
 そしてアーウェンの胸元に顔を埋めるようにして、抱きついてきた。

「アーウェン……」

「あ、あの……どうしたんですか?」

「きみは…………過ぎるよ」

 ぼそぼそっと呟かれた小声は、一部が聞き取れなかったが、とても幸せそうな声だった。



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