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キラキラ狼は偏食の吸血鬼に喰らわれたい
【ファンタジー 官能小説】

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そうだ ごはん買いに行こう。-7

「――それで、俺を買ったんですか」

 覆いかぶさったままのアーウェンに尋ねられ、ラクシュは頷いた。

「ん……」

 長い話だったから、口にできたのはほんの一部だったが、アーウェンは賢い。おおまかな事情を察してくれた。

 ラクシュと名前を変えて、人間社会に戸惑いながら、なんとか魔物の奴隷を売る場所を見つけたけれど、売られていた魔物に、ちょうど吸血鬼はいなかった。
 少しなら売り物に触ってもいいと言われたから、一人づつ、血の滲んでいる傷を探して舐めてみたら、もれなく気味悪がられた。
 それでも、吐き気はせず、どうやらラクシュが食べるのは、他の魔物の血でも良かったらしいと判明した。
 そして、アーウェンを買う事にしたのだ。
 理由は、他の魔物はラクシュの異様な行動と顔つきにすっかり脅え、必死で目を逸らしていたけど、彼だけは警戒しつつも、ラクシュをちゃんと見たから。
 ……睨んでいたというほうが、正しかったけれど。

 性快楽を与えて血を啜るには、まだ小さすぎるけれど、あれは味をよくするためと、抵抗されないための手段で、どうしても必要なわけじゃない。
 血を飲めばラクシュの身体は興奮するけれど、自分で処理することだってできる。少なくともラクシュは、ずっとそうしてきた。
 
 小さな人狼少年が、ラクシュを好きになって、喜んで血を飲ませてくれるように、一生懸命優しくしようと思った。

 ―― だって、私の大事な、ごはんだから。

「……ラクシュさん、だったらどうして今まで、俺の血を一度も飲まなかったんですか?」

 頬を掴む手が移動し、雪色になったラクシュの髪に、優しくかき入れられる。
 手首の戒めも外されたけれど、しっかりのしかかっている重たい身体を、弱りきったラクシュは退かせない。

「ラクシュさんが欲しいなら、俺の血をいくらでも飲んでください」

 そう言ったアーウェンの周りに、またキラキラが見え始めて、あわてて首を振った。

「いらない……」

「どうして? ずっと痩せ続けてたのは、そのせいなんでしょう? もう、死にそうな顔をしてますよ。すぐに飲んでください」

 アーウェンが片手で器用に自分のシャツボタンを外す。首筋に血脈が浮いて見えた。

「――っ!! いらない!!!」

 自分でも驚くほど大きな声が出た。アーウェンが目を見開き、ボタンを外す手が止まる。

「いらない、いらない! アーウェン……きみの血は、いらない……っ!」

 嬉しいのと嫌なのと、反対の感情が同時にこみ上げてきて、泣きじゃくりながら訴えた。
 アーウェンと暮らし始めた時に、懐くまでしばらく我慢しようと思った。
 お腹は減っていたけれど、魔道具をつくって静かに暮らすだけなら、そんなに空腹は辛くない。

 一年が経って、すっかり懐いた少年に、血をちょっとだけ飲ませてと言おうとした。
 でも、頼みがあると言ったら、アーウェンはすごく嬉しそうにキラキラした笑顔を向けてきて、それを見たら、なんとなく言いそびれてしまった。
 もう一年が過ぎた。
 子犬みたいに懐いてくる人狼は、ぐんぐん大きくなって、立派な狼らしくなってきた。
 こんなに元気そうなら、ちょっとくらい……と思ったけれど、またあのキラキラを見たら、やっぱり言い出せなくて、気づけばまた一年が過ぎた。
 今度こそはと決心し、もしアーウェンが嫌だったら遠慮なく断れるようにと、購入証明書を焼いて見せ、それから改めて言い出そうとしたけれど、今度も言い出せなかった。

 黙って工房に篭ってしまったラクシュに、アーウェンはチョコケーキを作り、持ってきてくれたから、それを食べた。
 すごく美味しかった。でも、やっぱり、満たされない……。

 ―― アーウェン、きみのキラキラは大好きだけど、私の眼には、眩しすぎるよ。


 眩しすぎて目が眩み、あさましく暗い要求を、言い出せなくなる。
 気づけば時は流れ、ふと、アーウェンがラクシュを『いらなくなった』のにきづいた。
 アーウェンは養って貰わなくても困らないほど成長し、反対にラクシュはすっかり弱って、彼を守るという約束も、果たせなくなった。
 だからもう、ごはんになってと、言えなくなってしまった。

「……っ……きみは、もう、わたしを、いらない……だから、きみから、もらえな……っ!?」

 いきなり、アーウェンが自分の指を思い切り噛んで、ラクシュの口の中に突っ込んだ。

「ん、ん……あ、ふ……」

 脳髄が痺れそうなほど、甘く美味しい血の味がする。ダメだと思うのに、口の中に入れられた指に、夢中で舌を這わせてしまう。
 ラクシュの口内を指で舐りながら、アーウェンが囁く。

「ラクシュさん、俺を食ってください。俺はラクシュさんに、他のヤツなんか食わせたくないんだから、ちょうどいいじゃないですか」

 そう言ったアーウェンは、ラクシュが魔法なんかかけていないのに、頬を蒸気させて目に情欲を浮かばせていた。
 ようやく指を引き抜かれ、ラクシュは痩せた胸を喘がせながら、恐る恐る尋ねてみた。

「アーウェン……発情、してる?」

「〜っ! し、してますよ!!」

 顔を真っ赤にしたアーウェンが、きまり悪そうに怒鳴る。

「だめ、だよ……アーウェン、もっといい匂いになってきた……欲しくなる……」

 困惑して、なんとか抜け出そうとしたら、唇を同じもので塞がれた。

「ん、んんん……」

 もがいた拍子に、久しぶりに伸びた牙がアーウェンの唇を傷つけて、血が流れこむ。


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