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人狼少女は本能のまま恋をする 
【ファンタジー 官能小説】

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夜の困惑-3

***

 村で一晩を過ごした隊商は、また西へ移動していく。
 子ども時代の帰り道では、いつもあの村でバーグレイ商会と別れて、イスパニラ王都へ直行していたから、これから先は始めて訪れる土地だった。
 深い森や山道を通りぬけ、つぎに留まったのは山間の少し大きな街。

 これくらいの規模の街では、薬師や医師もちゃんといるため、医薬品よりも化粧品や外国菓子などの嗜好品類や、魔力をこめた品々などがよく売れるそうだ。
 バーグレイ商会の人々は、まだ朝もやのたちこめる時間から、市場に荷馬車を留めて開店準備を始めた。
 市場の出店者には街の住人も多く、この辺りの伝統的な刺繍いり衣服に、白いエプロンをつけた女性たちが忙しく働いている。
 アンは、黒髪をピンで留めているのはフロッケンベルクに住んでいた頃と同じでも、衣服は隊商の人間らしく、草木染めチュニックと革のサンダルだ。
 木や鉱石で作ったネックレスや腕輪は、動きに合わせて軽快な音を立てる。
 隊商の女性達が作ったこれらアクセサリーも商品の一部で、アンたちがつけているのを見て購入していく女の子も多い。

 ほどなく日が昇り、市場は賑わいを増していく。
 今日は気持ちのよい秋晴れで、市場には客も多く品物もよく売れた。
 アンも客に商品の説明をしたり、木箱から在庫を補充したりと、せっせと働く。身体を動かすのも接客も好きだし、忙しければ夜の密かな悩みに囚われる暇もない。
 すぐ隣には串焼き肉を売る屋台がでており、美味そうな香りが漂っていた。
 純粋な人狼ほどではなくとも、アンも嗅覚が非常に鋭い。充満する香りは少々濃すぎるが、近くがゴミ捨て場だったりして悪臭を漂わされるよりは、ずっと良い。

 そして街の市場を、オレンジ色の夕陽が染め始めた頃だった。

「……?」

 ふと突き刺さるような視線を感じて振り向くと、灰茶色の髪をした鋭い目つきの男が、じっとこちらを見ていた。
 まだ若く、二十代の半ばといったところだろうか。背が高く引き締まった体つきをして、日焼けした険しい顔つきは、なんとなく人を寄せ付けがたい雰囲気をかもしだしている。

「何かご入用ですか?」

 愛想よく声をかけたアンを、男は無遠慮にジロジロと眺めまわした。

「この隊商で暮らしているのか?」

 無愛想な声で唐突に尋ねられ、少々面食らう。変な人に声をかけてしまったと後悔した。

「は? ……そうですけど」

 曖昧に笑い、他の客の相手をしようと思った時、唐突に手首を掴まれた。

「お前を買う。俺と来い」

「な……っ!?」

 あまりに傲慢なセリフ以上に、楽々と掴まれたことに驚いた。
 アンは将来の猛者揃いといわれるフロッケンベルクの士官学校でも、常に兄と主席を競っていた。
 双子の武術成績が三位以下を大きく引き離していたのは、もちろん人狼ハーフゆえだが、男の動きはそのアンを軽く超えていた。

(まさか……)

 男を凝視し、アンは冷や汗が背筋を伝うのを感じる。
 鼻腔に集中すると、隣から流れる濃い肉の煙の合間に、男の体香がかすかに判別できる。

――狼の匂い。

 琥珀色をした男の鋭い眼光が、かすかな金色を帯びてアンを……獲物に狙いを定めていた。




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