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さくら、さくら。
【大人 恋愛小説】

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これ、罰ゲームですか?-4


ゆるやかに吹き撫でる少し冷たい夜風に吹かれ、公園の外灯に照らされてゆっくりと歩く彼女。

なんとなく歩調をあわせてその半歩後ろを歩く僕。

夜の色が混ざった焦げ茶色の真っ直ぐで長い髪が風にふうわりと小さく揺れると、優しく甘いシャンプーの香りが漂い、なんだか急にわけのわからない気恥ずかしさがこみ上げて胸がそわそわした。

なにか話さなきゃ…。そう思って喉から出た言葉は、

「僕の事なんて全然眼中になくて、覚えて貰えてるなんて思ってもみなかったよ。僕なんか小島さんみたいに仕事 できないし、部署でも全く存在感ないからさ…」

情けなくも自嘲的な笑みで変なこと呟いてしまった。

「ほんと、確かに仕事は私よりできないし、存在感も、… うんかなり薄いよね」

うんうんとうなずいて、すべて肯定して笑った。…ほんと楽しそうだな、おい…。

「…ごめんなさい」
「はぁ…、またすぐそうやって謝る。ちょっとは反論しなさいよね」
「いや…反論しろって言われても、事実その通りだしさ… 」
苦笑混じりで俯いた僕に、

「仕事はできないわけじゃないでしょ。入社してちゃんと6年たった事がわかる働きかたをしてるし、存在感が全くなかったら、今日顔を合わせた時点で私ははっきりと「どちら様?」って尋ねてると思うけど?」

やれやれと言いたげなため息をついて、

「そうやって自分を見下げるの、よくないなぁ」
と僕を横目で見て、小さく笑った。

「遠山君はさ、存在感が無いわけじゃないから。てか、私から見たら、遠山君は自分から存在感を消そうとする事がよくあるように感じるよ?」

そんな小島の言葉を聞いて、僕は再度驚いた。

「頑張ってるのに、頑張ってますって自己主張もアピールもせずに、頼まれた仕事はどんなにめんどくさい厄介な事でも嫌な顔ひとつせずにきちんとこなす。手柄を先輩上司に横取りされても怒る素振りも見せない」

やれやれとため息をついて、

「遠山君て全くもってバカがつくほどお人好しだよね? だけど、 あなたがいる事で助かってる人は結構いるのも事実だし、本当はもっとコミュニケーション取りたいなって思ってる人もいるんじゃないかな?」

小島の言葉に、
「いや…そんなまさか…」
と苦笑いを浮 かべたら、

「…あんたのそういう自虐的なところが、人を寄せ付け辛くしてるって、いい加減気付けよなぁ」

急に立ち止まり、全く…と言いたげな顔にやれやれとため息を添えながら僕を見て、

「…多分忘れてると思うけどさ…」
小島は小さく苦笑を浮かべて前を向き歩きだした。

「私、入社して間もない頃はさ、些細なミスを連発させて 、毎日凄く落ち込んでたよ」

「え…そうだっけ?」
そんな風には全然見えなかったような…。

「入社当時は先輩上司達に結構酷い事言われてたんだよね 。まだ大人しかったし、仕事なんて全くわからなくて右往左往してた状態なのに、必ずって言っても過言じゃないくらいに『これだから女は…』ってバカにされる言葉がつきまとってた」

小島は、懐かしそうに目を細めて笑みを浮かべ、

「もう、悔しいの通り越して疲れちゃってさ…情けないことに給湯室で泣いてしまったわけだ」

「あ…」
「思い出した?」

笑いながら尋ねる小島に、僕は頷いて、

「僕…あの時も苦笑いして」
「うん、ごめんなさいって謝ってさ…」
「確か…息抜きに買った缶コーヒーを…」
「そうそう、クソ甘くてまずい缶コーヒーを私に差し出して、脱兎の如く逃げたよね?」

「ク…クソ…まずいって…。僕はあれが一番好きなのに… 」
「私はブラックしか飲めないし」
「え…そうだったんだ…。全然知らなくてごめんなさい」
苦笑いして謝る僕に、

「いいわよ別に…あなたには興味もないだろうしね、そん な小さな事なんてさ」

つぶやいてため息をついた小島を見て、

「いや、興味が無いわけじゃなくて…。なんてか…、僕な んかが小島さんに興味を持つ事は自体おこがましいかな… と」


だって、小島は僕と違っていつも背筋伸ばして堂々として目立つ存在で。 口は悪くても、ちゃんと会社の皆から頼られてる実力者だし。

「…もういい」

小島は語気を強めて一言放ち、歩く足を速めた。 …間違いなく怒ってるのは確か。だけど、どうして怒ったのか、僕には訳がわからなくて。

「ごめんなさい…」

なんとなく場を保とう気持ちで謝ってみたけど、 小島は僕を無視して歩き続けた。



24時間営業のディスカウントショップに着くと、小島はハーフサイズのフリースの毛布を四枚と、ビールや缶チュ ーハイ、スナック菓子類を乱雑にカートに放り込み、レジ で清算を終えて、来た道を速足で引き返す。

その間、無言。 顔は勿論といわんばかりに不機嫌で。

どうしたらいいんだ…。 僕はもやもやした状態で、小島に聞こえないように、小さくため息を落として、後をついて歩く事しか出来なかった。



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