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BLACK or WHITE?
【幼馴染 官能小説】

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−6−-1

(好き、か……)
ベッドの上で胡坐をかいていた椎奈は、クッションをぎゅっと胸の前で握り締めた。好き、ってどういう意味なんだろう。青臭い疑問だと、自分自身でも思う。だが、はっきりとわからない。
お父さんも、お母さんも、妹の杏子も、もちろん、孝太郎も好き。みんな好きだ。
だが、それ以外の特別な好意を、孝太郎だけに見出せなかった。さばさばとした性格の彼女だから、異性の友人も数多くいる。その中でなら、孝太郎は確かに特別かもしれない。他の男友達とは比べ物にならないくらい、信頼している。
口付けられた瞬間、彼の熱い吐息が零れた。自分の唇から喉を通って、肺へと入ってくる彼の熱。
(……もう、やめよう)
慣れない事を少し考えるだけで、眩暈と頭痛がする。目を背けたくなる。明日から、どんな顔をして彼と会えばいいのだろう。思い悩んで椎奈の頭は、最早爆発寸前だった。




「おはよ」
「……うん」
出来るだけ避けたいと思っていたにも関わらず、朝から鉢合わせだ。昨日の光景がまざまざと脳裏に甦り、気まずさのあまり椎奈は露骨に孝太郎から目を逸らした。
そのまま無視して駅まで向かおうとすると、
「椎奈」
静かに、だが力強く孝太郎は立ち去ろうとする彼女を呼び止める。平静を装いたかったが、ぎくりと、彼女の肩が強張った。
「お前の返事ちゃんと聞くまで、俺は諦めないから」
それだけ言うと、彼は椎奈を追い越して、決然と歩いて行ってしまった。はっきりと自分の思いは彼女に伝えた。あとはもう彼女次第だ。
そんな彼の背中をぼんやりと椎奈は見つめる。ここ最近、自分はこの幼馴染との関係で気持ちを乱されてばかりだ。いつまでこんな事を続けるんだろう。どうして、このままじゃだめなんだろう。幼馴染で、一番の友達で、信頼し合って……自分にとってこれ以上の関係はないのに、彼は何故わざわざこの関係を壊そうとするのだろう。浮かぶのは疑問符ばかりだ。彼と一緒にばかみたいなことを言い合って、騒いで、楽しくて、そして安らげて。それなのに、今は胸が苦しくて、もやもやして、顔を合わせる度にどぎまぎして、落ち着かない。
(あたしは……)
しばらくその場に立ち尽くしていたが、ようやく決意したように、椎奈は堅く拳を握る。一度深呼吸し、椎奈は遠ざかる彼の背中を真っ直ぐ見据えた。
―――今度こそ、白黒はっきりつける。


「杏子ちゃん、孝太郎くんにお夕飯持ってってくれない?」
「もう、まったくしょうがないなぁ……」
のんびりとした母親の頼みに、杏子は渋々と承諾しようとするが、
「いいよ、今日はあたしが行ってくる」
静かに、椎奈はそれを遮った。
「え、でも……」
何気ない姉の言葉に、杏子は振り向くと、彼女の胸に一抹の不安が広がる。椎奈の瞳はどこか一点を見据えていて、その彼女にそぐわない、取り澄ましたような横顔は一体何を考えているのか想像ができない。それほど落ち着いている姿を、姉は家の中では見せたことがなかった。
「だってこの前は行ってもらったしさ」
だが、それも一瞬で、杏子に顔を向けた彼女はいつものように明るい笑顔を見せた。
「……うん、じゃあ、お願い、お姉ちゃん」
先ほどの違和感は自分の気のせいだったのだろうか?心に波紋を残しつつも、不自然な笑顔を浮かべて、杏子は椎奈にその役目を任せた。


幼い頃から何度も行き来していた互いの家だが、今夜だけは全く知らない家に足を踏み入れるような心地がした。呼吸を整え、椎奈はその家のインターホンを押して名乗ると、同じように緊張した面持ちの彼が現れた。
「よっ」
椎奈はいつものように軽く挨拶をしたつもりだったが、表情が堅くなっていることは簡単に自覚できた。まるで自分の姿を映す鏡のように、彼の態度も同じく堅かった。普段通り振舞おうとしたせっかくの努力も水の泡で、椎奈の体に一気に緊張が走る。
「これ、夕飯。あたしもまだだから一緒に食べよ」
「ああ、いつもありがとうな」
彼の家に通された後、温かいうちに母の手料理を食べたが、今までの二人の間だったらあり得ないような沈黙が続いた。
佐原家のリビングと違い、すっきりと片付けられていて、モノトーンの色調で統一された家具や調度品の中にある観葉植物の緑の存在感が、一際目を引く鮮やかさだ。
静寂に包まれた食事を終え、ようやく一息つくと、椎奈は話を切り出した。
「あのさ、昨日のことだけど……お前はたぶん、幼馴染の友情を勘違いしてんだよ」
「……違う」
不躾な彼女の発言に、間髪入れず、孝太郎は反論した。自分が、何年抱き続けた感情だと思っているんだ。昨日今日に突然生じたような、曖昧な気持ちでは決してないのだ。勘違いだなんて、簡単な言葉で一蹴されたくはない。
「だってさ、おかしいだろ」
何とか穏便に事を済ませたい彼女は苦笑を浮かべながらそう言うが、正面に座る彼の顔があまりにも真剣で、すぐに自らも気を引き締めた。冗談では、済ませられない。
「少なくとも、俺の方がこの気持ちは友情とは違うものだって、お前よりわかってるつもりだ」
ますます、空気が重くなる。椎奈は沈鬱な表情で、
「なあ、何で今のままじゃだめなんだ?あたし達の関係は何も変わらないじゃないか……」
取り繕う言葉が思い浮かばず、溜息混じりに本音を漏らした。
「俺は、椎奈に幼馴染としてじゃなく、男として見てもらいたい」
「あはは、何言ってんだよ、どっからどう見ても男じゃ……」
凍りついてしまった場を少しでも和ませようと、椎奈は必死に渇いた笑いをあげた途端、
「嘘だ」
ぐっと、力強く手首を握られ、そのまま彼の方に強く引き寄せられる。間近に彼の顔があり、椎奈の心臓は思わず、どきんと高鳴る。


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