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遠い行進
【その他 官能小説】

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その(1)-3

 歌が売れ出し、それまで見向きもしなかった連中が振り返った。同僚たちもそらぞらしく一目置くようになったものの、素人の一発屋だと聞えよがしの声が聞こえた。
 しかしヒットが続き、マスコミの方から騒ぎ出すと、もう何も言わなくなった。

「退職するって?」
上司は慌てて、想像もしなかった好条件を示して引き留めようとした。社長命令まで出されたようだ。
「作家として一本立ちするのは結構だが、いつまでもうまくいくとは限らないよ。君の才能は十分認めている。君の望み通りにしようじゃないか」
 浮き沈みの激しい世界であることは承知しているつもりだった。
「ならばせめて我が社と専属契約をしてくれ。フリーだと一寸先は闇だぞ」
「一生続けるほど自惚れてはいません」
「出来るかぎりのポストを用意する」

 どこの会社の専属にもならないということは、すべてと契約できる状況でもある。その方がよかった。幸い、作者に注目が集まっていた。歌手よりも曲に人気が出ていた。
 その後続いたヒットで、ある程度の地位が出来上がった。各社から専属契約の話が持ち込まれ、それぞれ破格の条件を提示してきた。どこも強大な組織を持っていたが、どこにも傾かないために圧力のかけようがなかった。痛快で小気味よかった。しかし、虚しくもあった。

 さまざまな人間が押しかけてきた。ミユキのように個人的に運をつかみとろうとする女や男ーー。彼らはいきなり服を脱ぎ始めたり、金の入った封筒を押しつけていったりした。誰もが涙ぐむように懇願していった。

 しかし、ミユキは少し違っていた。彼女は自分とは無関係であるみたいに歌手になりたがっていた。
「いい歌作ってほしいんだ」
「いい歌って、どんな歌?」
「ヒットする歌」
ミユキは独り言のように言うのだった。
「本当に歌手になりたいの?」
「もう歌手にはなってるんだわ」

 ミユキは積極的に身を売ろうともせず、また金もなさそうだった。
「向井先生のところには今も行ってるの?」
「時々は」
「もう行くの、よすんだね」
ミユキは怪訝な顔をしていたが、
「わかった。先生のとこだけにする」
たいした意味も含めずに言ったのだが、どう解釈したのだろう。


 ピアノにも飽きてベランダに飛び出すと、そろそろ帰る時間だ。
「こんなマンションに住むみたいなあ」
身を乗り出して街の風景をぼんやり眺めている彼女の後ろ姿はひどくつまらなそうに見える。
 親や家族のことは聞いたことはない。『スター』になるまで、身の上話は必要のないことなのだ。

「先生、あたし帰るけど。バイトがあるから」
ミユキはベランダから戻ってくるとそう言ってソファに掛け、片脚を上げた。ピンクのパンティのぞいている。
 私は彼女に歩み寄り、膝をつく。ミユキはスカートをたくしあげ、尻を浮かせて下着を脱いだ。女の聖域が現われる。

琥珀色に似た猫のような瞳が見上げている。
「まだいい?」
「うん。きれいだよ……」
白い丘は滑らかで光沢さえ感じられる美しさである。三日前に剃ったばかりである。元々薄いので剃り後の毛穴もほとんど見えない。彼女が来るとこうして性器を見るのがいつからか習慣になっていた。

 じっと見ていると秘唇の裂け目から滴が盛り上がってくる。
「見られてると感じちゃう……」
(抱きたい……)
強い欲求がいつも突き上げでくる。
 一度もミユキを抱いていない。いま抱いたら弄ぶことになってしまう。卑劣な連中と同類になる。曲を作る見返りに女を自由にすることに頑なな抵抗があった。一見、売春と変わらないようにも思えるが、権威をふりかざしている気がしてならないのだった。

 彼女が来るようになって何度目の時だったか、部屋に入ってくるなり抱きついてきて唇を押しつけてきた。
「先生、抱いて……」
思わず背中に手を回したが、その手を肩に置いて微笑んだ。
「彼女いるの?」
「どうかな……」
「あたし、口かたいよ」
挑発的な目つきをしてスカートを捲りながらおどけて笑っていた。そのあどけなさに誘われたものか、思いがけず口にしていた。
「見せてくれる?」
股間への私の視線を見たミユキは、
「いいよ」
ためらいもみせずに脱ぎ捨てた。

 眩いばかりの肌に少女のような細い切れ目。一瞬の震えさえ感じて魅入られた。秘毛はあくまで細く薄く、無毛に等しい。
「剃っていいかな。その方がもっときれいだ……」
「ふふ……いいよ」
ミユキの何か含んだ笑いは妙に大人っぽく聴こえた。

「また来るね」
下着を穿き、バッグとコートを腕にかけた。
 ドアの方へ行きかけて、思い出したように振り向いた。
「先生、女嫌いなの?」
いつも不意なので苦笑する。
「そんなことないけど、どうして?」
「みんなが言ってるの」
「みんなって、誰?」
「いろんな人」
「君はどう思う?」
ミユキは考える表情をしていたが、
「わかんない」と首を傾げた。そしてけろりとした顔で小さく手を振った。

 


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