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鳳学院の秘密
【学園物 官能小説】

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終章 夢幻-1

 十一月十八日 金曜日

 「まぁ‥」
 渡り廊下から外に出ると、空は幻想的なまでに美しく彩られていた。遠く山の端に没せんとする太陽が、最後の輝きを持って世界を夢の様な色合いに染め上げており、思わず感嘆の声を洩らしてしまう。
 この美しい色彩を何と表現すればいいかしら?
 少し金色がかった美しい赤?それとも秋の空を彩る茜色?黄昏に輝く荘厳な薔薇色と言うのもいいわね。
 ううん、やっぱりこの美しさを言葉で表現する必要なんてない。ただ心で感じるままに受け止めればいいんだわ。
 うっとりと見とれていると、冷たい風が無情にも現実の世界へ引き戻す。晩秋の風は肌を刺すように寒く、身体を芯から冷えさせる。今朝通った時には並木通りの桜もすっかり葉を落とし、裸の幹を寒々とさらしていたし、冬の足音はもう間近まで迫っていた。肩をさすり、文化棟へ向かおうとすると、柔らかな声が私を引き止めた。
 「美しい夕焼けですわね、心奪われてしまいそうですわ」
 聞き覚えのある声に振り返ると、担当クラスの女生徒がゆっくり歩いてくるところだった。夕陽に染まる端正な顔には、上品な笑みが浮かんでいる。
 「あら、綾小路さん、もう実家からお戻りになったの?」
 「ええ、予定を少し早めれましたので、つい先程着いたばかりです。桜井先生の授業には間に合いませんでしたわね」
 冗談っぽく顔を綻ばせる彼女はどこか嬉しそうだ。そのまま肩を並べ、一緒に文化棟へと歩き出す。校舎に入ると外の寒さは嘘の様に治まった。
 「すっかり秋も深まりましたね、今年の冬は寒いでしょうか」
 「貴方にとっては大切な受験の季節ですものね、特に風邪には気をつけなくちゃ」
 「あら、受験のことは心配していませんわ。それより原油価格の高騰が、電力需要にどの程度影響を与えるかが気になります」
 彼女らしい心配をしながらも、受験に対して慢心がないことは実力が物語っていた。東大法学部の入試判定は常にAを維持し、昨年の入試問題では全教科満点と言う快挙を成し遂げている。綾小路家専属の個人教師により、義務教育期間に英才教育を施されてきた彼女は、学力の面での不安を全く感じさせない。 学業のみならず、生徒会活動や課外活動を通して学院に貢献し、模範ともなる品行方正な振る舞いは、まさに生徒の鑑と言うべきである。
 そんな彼女も、後数カ月で卒業を時を迎える。進学を果たし、いずれ社会で活躍するようになれば、綾小路家の重責を背負い、これまで以上に世間からの期待を受けることとなるでしょう。もちろん、彼女にその期待に応えるだけの能力があることは信じて疑わない。でも、今の彼女がまだ十八歳の女の子に過ぎないことを、はたして誰が知るのかしら。


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