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Mirage
【純愛 恋愛小説】

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Mirage〜1st contact〜-5

「いや、筑波が欲しそうやったし‥‥」
「あんたやっぱ美沙にちょっかい出してたんやない!」
「は? いや、ちが、いてっ、アホ、何すんねん!」
何故か千夏が眉を吊り上げ、僕をどつき始める。しかも結構本気。
「痛い言うてるやろこのアマぁ!」
「やかましい!」
黄昏時のホームに、僕たち二人の罵声が響いた。
日は、もうすぐ暮れる。
見舞いに行ったすぐ次の日、筑波はもう学校に来ていた。痛々しい松葉杖姿だったが、それでも彼女はにこにこと笑っていた。
その松葉杖も一週間ほどで取れると、いつの間にか時間が過ぎ、制服が夏服に変わり、気が付けばもう、夏の匂いが僕たちを包んでいた。
「縁日行こうや」
終業式が終わり、帰途に就こうとした廊下で、そう言い出したのは千夏だった。
幼いころから彼女は祭の類いが大好きで、僕もよく無理矢理引っ張られて行ったものだ。しかしもちろん僕は、
「嫌やわ、どうせ人ばっかで疲れるだけや」
と答えた。
「何でそんなオッサン臭いねん。いいから行こうや。誰か誘ってもええから」
そんなことを言われても、誰かと一緒に行ったところで人が減るわけでもない。
「何で一人で行かへんの?」
至極当然のことを聞いてみる。
「一人では行かん。あんたが行かんかったらうちと美沙で行くことになんねん」
「ほんなら二人で行ったらええやんか」
「アホか、女子高生二人で縁日フラフラ歩いとってみぃ、頭の悪い男に捕まるんがオチやで」
何の根拠があるのか、千夏は当然のように主張した。
「それやったら森島とか西沢とか人数増やして行きぃや。そしたらそう簡単には手ぇ出してけぇへんわ」
「うちかてそうしたいねん。けど美樹も香織も予定入ってるって言うてんねんもん。せやから頼むわ」
千夏が僕にここまで頼み込むのも珍しい。付いていくだけなら、ぐらいに思ってしまう。
「まぁ、考えとく」
そう言って僕は踵を返──そうとして振り向く。
「ま、俺がダメやったら、お前がメイクせんかったらええだけやしな。縁日やのに肝試しや」
僕はくくく、と笑って千夏に背中を向けた。
「──っ、うちは眉毛だけやっ!!」
その声が、昼間の廊下に響いた。その場にいた全員が目を丸くして千夏に視線を注いだのは、言うまでもない。


その三日後。金曜日の夕方。千夏の家から近い神社で、縁日が催された。結局集まったのは僕と千夏と筑波の三人。千夏は淡い桃色に薄紫の帯、筑波は同様に藍色と青の組合せの浴衣を着ていた。学校での制服姿しか見たことのない僕は、何となく新鮮な気分で二人を眺めた。千夏はいつもだが、筑波の髪が結い上げられているのも初めて見る。
「何見てんの?」
千夏がきっと僕を睨む。睨むくらいなら着て来なければいいのに。
僕は鼻で嗤い、そっぽを向く。
「神崎くん、一人?」
僕の顔を覗き込むようにして、筑波が訊いてくる。
「どいつもこつも、予定が合わんくてな」
辟易しつつ僕が言うと、そっか、と筑波が返す。
「ほんなら、行こか」
千夏が僕の裾を引っ張る。彼女の癖だ。いつも僕はこうやって彼女の同伴をさせられていた。
やれやれ、と口の中だけで呟き、僕たち三人は境内へと歩を進めた。


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