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Mirage
【純愛 恋愛小説】

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Mirage〜1st contact〜-3

吐き捨てるように、千夏が呟くと周作の表情が凍る。ちなみに、千夏と周は同じ中学の出身らしい。
「で、筑波はどうしたん?」
「病院行くって言うから、うちが美沙の荷物取りに来てん」
僕が訊くと、千夏はやれやれ、といった感じで答えた。
「筑波、あんたにありがとう、って言うてたで。感謝しぃ」

──ん?
 
「なんでやねん。なんで俺が感謝やねん」
「あんた女の子にお礼言われたことなんてないやろ?初体験ありがとう、な感謝」
「人のこと言えるんかい」
僕は鼻を鳴らして外を見る。昼下がりの、春らしい陽気が教室内にいても伝わってくる。
「うちは結構モテんねんもん。──まぁええわ。伝えたで」
千夏の声が背中に当たった後、遠ざかっていくのがわかった。
僕はそのまま机に伏せ、ぼんやりと外の景色を眺めた。次第に、まぶたが重くなり、視界が白み始める。何となく柔らかなものに包まれている気がした。その心地よさに、僕の意識は少しずつ遠退いていった。
 
 
「こう──、──き」
耳元がうるさい。
「幸妃! いいかげん起きぃ!」
のろのろと顔を上げると、およそ20センチほどの距離に、見慣れた白い顔。
「何やねん千夏‥‥」
「何やねんちゃうわ。もう放課後やで」
言われて周囲を見回すと、もう教科書を机上においている生徒はいなかった。僕はさよか、とだけ言うと、引出しの中の教科書を鞄に詰める作業を始めた。
「今から筑波のお見舞い行くんやけど、あんたも来(き)ぃ」
 僕の席の隣の机に腰掛け、千夏が足をぶらぶらと揺らす。
「は? 嫌やわ。めんどくさい」
「うちはどうでもええねん。せやけど、美沙が連れて来いって言うてんねんもん」
ため息混じりに、千夏は言ったが、僕には彼女の言っている意味がわからなかった。彼女とは、今日初めて会話を交わしたはずだ。それがどうして僕が見舞いに呼ばれなければならないのか。
「どないすんの? 行くん? 行かんの?」
次の瞬間、僕は自分でもよくわからないことを口にしていた。
「‥‥行くわ」
筑波家は、高校の最寄り駅から一つだけ離れた駅で降り、そこから10分ほど歩いたところにあった。小綺麗で、いかにも今風な白い家。筑波の部屋は階段を上ってすぐ。昔行った千夏の部屋とは少し女の子らしさの系統が違う。筑波の部屋はカーテンやベッドカバーがパステルカラーで統一されており、柔らかい雰囲気を醸し出していた。何となく彼女らしい、といった感じ。
「みんなわざわざごめんなぁ」
筑波が申し訳なさそうに言う。彼女の家に集まったのは、総勢4人。そのうち、男は僕のみ。究極に居心地が悪かったのを覚えている。
「けどあんまし大したことないらしいねん。心配かけて申し訳ない」
照れたように頭を掻き、筑波は笑った。
「まぁ、大事にならんで良かったなぁ」
そう言ったのは、ショートカットに眼鏡をかけた知的な女子生徒、森島美樹。
「ほんまやわ。運動神経ええのに、いらんとこでドジやねんから」
西沢香織が笑い、長い茶髪を揺らす。この二人が体育の時間の後に保健室にやってきたメンバーの残りだ。
4人は楽しそうに話していた。おかげで、僕はその中に入れず、ただその様子を眺めていた。
そして30分ほど経つと、女子高生版井戸端会議は終了を迎えた(ようだ)。
「あ、せや。美沙、ほんまにこいつ連れてきて良かったん?」


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