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野生の悪魔が現れたっ
【ファンタジー 官能小説】

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白銀の翼-4

 ギィギィ、と軋む音が聞こえてきそうな動きで首を回す。徐々に背後が視界に入っていく。

 塗装の剥げた床を踏む、茶色いブーツ。その足首に見られる白いレースの生地は、ロング丈の青いワンピースの裾に縫い付けられている物だった。バッサリ開いた胸元にも白い飾り布が縫い付けられ、豊かな胸に押し上げられている。上に羽織った濃紺のコートはショート丈で、細い腰のラインが隠れていない。

「だ、誰……?」

 細い腰の背後に、真っ直ぐ下りた髪の端が見える。銀色がかった青い髪だ。クランの紅蓮ともミルルのピンクとも違う髪色をしたその影は、あの二人と違って白い羽を生やしていた。いや、翼という言葉の方が適当だろうか。彼女の腕と同じくらいの長さをした白い翼が、左右に伸びていた。

「人間」

 高い声質の声を低く押さえて、その一言。威圧しているようにも思える。蒼い瞳から放たれる視線はとても冷たく、感情というものがまるで見えない。

 セピアに染まった世界の中に青という色彩を纏う彼女は、修一に安堵を与えていた。しかしそれは彼の勝手な縋りであり、彼女の態度は明らかに他を寄せ付けていない。

 薄桃色の唇が、一呼吸を置いて動く。

「クランの居場所を教えてもらおうか」
「クラン……?」

 修一の記憶の断片にある、白い翼を生やした誰か。目の前にいる彼女とは体格も髪色も違うのだが、白い翼を生やしているという点で共通している。
 あの誰かは、修一を庇うようにクランの前に立ちはだかっていた。一体何がどうなっているのか、あの後何があったのか、彼女たちは何なのか。見慣れないセピアに染まった世界の中では、知りたいことが山ほどある。

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。いきなりクランとか言われても……クランの友だちなの? ていうか、あなた誰デスカ? それ以前にここは何処?」

 蒼い柳眉の片方がピクッ、と跳ねた。

「少しは纏めて訊けないのか?」

 ハア……と嘆息を聞かせた彼女は、大きな胸の前で細い腕を組んだ。

「ここはコネクト・スペースと呼ばれる世界。天魔族のために用意された空間。そして私はアリア=グレイス。ガーディナル・ブレイブだ。つまり──」

 え? え? と混乱を極めている修一だったが、

「──クランを抹殺する者」

 一気に緊張感が走り、身体が痺れた。

「クランを……抹殺……?」

 ある日、いつものように帰宅すると、見知らぬ幼女が立っていた。名はクラン=フレス=ミーティグレー=ラ=ストゥール。関西弁と長い紅蓮の髪が特徴だ。やや生意気なところがあり、時には冷酷で、赤黒い光弾をぶっぱなしたりもするが、子供っぽいところや頬を緩めて物を食べる様子、何より無垢な寝顔は悪魔と思えないほど幼気だ。

「もう一度言う。クランの居場所を教えてもらおうか」

 目の前のアリア=グレイスという、女の姿をした誰かは、クランを抹殺する者だという。その彼女にクランの居場所を教えるとどうなるのか……考えるまでもない。

「…………知らない」
「ふっ」

 とアリアは鼻で笑い、蒼い瞳で修一の手を差した。

「貴様がクランと繋がっていることは、それを見れば一目瞭然だ」

 修一は咄嗟に、金属片の乗った手を後ろに回した。
 アリアが蒼い瞳に修一を映す。

「貴様が天魔族と繋がっていることを澪は感知していた。そして貴様が魔力を宿していることを私は確認した。だが肝心の天魔族が見当たらず、浄化できなかったのだ。仕方がなく、澪が祈りを捧げていた物をホーリーの媒体にして天魔族が寄り付かないようにしたのだが、結果はそれだ」
「よ、よく分からないんだが」
「つまり、ホーリーの媒体が破壊された。普通、天族や魔族はホーリーを感じると寄り付かなくなるものだ。浄化を嫌うからな。だがクランは違う。クランは有り得てはならない存在の仕方をしてるためか、ガーディナル・ブレイブに抗うのだ。だからクランの抹殺は最優先事項。封印に失敗したのなら尚更、むしろ他に手がないということだ」

 修一はできる限り頭を働かせたが、当然話しの内容には分からない点が多々ある。分かったことといえば、澪からもらったアクセサリーを壊すのはクランだけで、それを持っていることはクランと繋がっていることを意味している、ということ。しかしそれだけのことが分かれば、彼がとるべき言動は自ずと決まる。

「知ってるけど教えない……て言ったら?」

 アリアは腕組みを解いた。眼光が鋭くなっている。

「澪には悪いが──」

 蒼い瞳に青い光が滲む。
 アリアが右腕を横に伸ばすと、手の辺りに青い光が集まった。その光は、まるで十字架のような形に変形していく。

「──貴様を抹殺する」

 青い光の上部に白い指が巻き付くと、青い光が散った。そうして現れたのは、剣だ。
 長い刀身。黄色い鍔の中央に埋め込まれた半球状の青い水晶に、燻んだ黄色の無限大の記号が沈んでいる。
 アリアが右腕を前に突き出すと、今にも地に届きそうだった長い刀身が水平に起き、鈍色に輝く切っ先を修一に向けた。


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