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天神様は恋も占う?
【青春 恋愛小説】

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桜時の誘惑-2

「ふ〜、やっぱ気持ちいいね!」
屋上への扉を開けると、弾かれるように飛び出して振り返りながら梓は満面の笑みを浮かべる。
ウチの学校は校舎が昨年建て変わったばかりで、施設の充実さは県内でも群を抜く。冷暖房完備、バリアフリー完備、シックスクール対策もバッチリ。健康面の考慮だけではない。吹き抜けを中央に配置しているため校舎は常に日の光がさしていて、とても明るくなっている。
そして凄いのはこの屋上。大抵の学校の屋上はコンクリートで固められた味もそっけも無いものだ。だがウチのは一言でいうと“庭園”。かなりの数の植物が植えられたりしていて、まさに生徒の憩いの場なのだ。
今日も結構沢山の生徒が来ている。屋上には桜も植えられていて、この時期は花見がてらここに来る生徒も多いのだ。
夏場は青葉、秋には紅葉、と四季の彩りも楽しめてしまうのだ。管理人の方には感謝しなきゃ。

運よく外れの方に空いたベンチを見つけ、そこへ座る。
「空いてて良かったね!」
太陽のような笑みの梓。
「ああ、それにさ、見てみろよ」
俺に向いていた梓の視線を正面へと促す。
「わぁ……!」
見事なまでに咲き誇る桜。座ったベンチからはそれが真正面に見られた。
ピンクの絵の具か何かを一面に塗ったキャンバスのように、いや、そんな表現では足りない。圧倒的な美しさがここにある。古の人も魅了されたに違いない。
「それじゃ、食べよっか」
「そうだな」
梓と二人、桜を前に弁当を広げて食べ始める。何となく、ではあるが、今日は弁当が美味しく感じられた。

「美味しかったね!」
程なくして昼餉を終える。
「ああ、でもそれにしても……、綺麗だよなぁ」
言いながら桜を見つめる。時折吹き抜ける風に枝が揺れ、桜吹雪を演出している。遠山の金さん、かくありなむ、みたいな感じかな。
ヒラヒラと風に舞う花びら。穏やかな春風。そしてさっき食べたばかりのお昼……。
 ──やばい、だんだん瞼が落ちてきた。
「……眠そうだね」
「うん、でもまだ大丈夫……」
口はそう動くが脳は既にお手上げ気味。3校時目の永木さんの授業が今でも俺の頭を蝕んでいたとは、不覚。でも“春眠曉を覚えず”とも言うしなぁ。
「ふふ、ホント眠そう。寝ちゃえば? 無理に起きてたら午後の授業で寝ちゃうよ?」
まさにそのとおり。一度だけだが、無理して昼休みに起きてたら見事に授業で寝てしまい、先生に灸を据えられたこともある。次は俺の不得意な国語、しかも古文なだけに、“陥落”してしまうとマズイ。
「…ごめん、ちょっとだけ寝るよ……」
「いいよ、時間になったら起こしたげるから」
梓の言葉を免罪符に、瞼を閉じる。俺が夢の世界へと誘われたのは刹那のことだった──。


「ううん……」
何分寝ただろうか。まだ頭がボーッとしている。体がだるい、というより重い。何故か左側だけ。おまけに何となく柔らかくて暖かい感じ。それはどこか安らぎを与えてくれる。
「あ……」
見れば梓が俺の左肩にもたれて寝ている。起こす、とか言いながら眠ってしまってはどうしようもないじゃないか。
「梓、梓」
軽くゆすったり、ほっぺたをつついたりするも、目覚める気配はない。
「すぅ……」
耳をすませば実に穏やかな寝息が聞こえる。
俺は右のポケットをまさぐって携帯を取り出す。意外にも時間はそんなに経ってなくて、予鈴まで5分はある。俺は梓を起こすのを止め、暫時桜を見ることにした。
実に穏やかな春の陽気。その中で自らの存在を誇示するように花を咲かせる桜。
こんなにも綺麗な姿をずっと見ていたいと思う時もあるが、やはりこれは春だから、いや春にしか見られないから良いのだろう。
ふと下を見ると俺たちの足下にも桜吹雪の名残があった。
足下だけではない、梓の髪にも1枚桜の花びらがついていた。


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