投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

想いを言葉にかえられなくても
【学園物 官能小説】

想いを言葉にかえられなくてもの最初へ 想いを言葉にかえられなくても 44 想いを言葉にかえられなくても 46 想いを言葉にかえられなくてもの最後へ

想いを言葉にかえられなくても《トロイメライ》-9

 そんな毎日に加えて、聖への想いが苦しさに重みを加えていった。
 聖に逢いたくて、話を聞いて欲しくて……だけど雑誌をめくると笑ってる聖がいる。流行の服を着て、ちょっと作った様な顔して…こんなの本当の聖じゃない。……聖が遠い…。
 想いは溢れて精神が潰されてしまいそう。苦しくて、切なくて。朝起きて二十歳になってたら良いのに。陰湿な、からかいよりも聖を想う方が何倍も、何十倍も…………心が悲鳴をあげている。

 そんな頃だった。クラスに馴染めないでいたあたしをキョースケが慰めてくれたのは。
「泣いても良いんだって。無理すんなよなぁ…イチコは人よりちっちゃいんだから。そんなに耐えてたら身体がもたなくなるだろ。」
 心に染みて波紋の様に広がる。あたしが欲しかったのは、こういう温かさだった…。涙が溢れて止まらない。こんなに泣いたのは『最後の日』以来かもしれない。我慢していた涙が男物のブレザーに染みを作っていった。

 その日以来、あたしはキョースケになついてしまった。
 捨て猫の気分がよく分かる。…ううん、あたしは『捨て猫』そのまんまだ。大好きな飼い主に置いて行かれ、新しい主人になって貰おうとなつく。切替えが早いんじゃない。だってそうしないと生きる事も難しいんだもの。
 そうして…あたしは聖を雑誌やテレビで見るのを止めた。……もっと正直に言うと、避けた…これが正しい。
 媒介を通していても、見られていると思うと自然と涙が溢れてしまう。何故なら、あたしは聖を裏切っているから…。
 一途に思い続けるのも限界。温かさが欲しい。
 今だって、聖を何度も思い出してしまうけど。
 キョースケを心から好きだと確信出来ないけど。
 あたしは聖を裏切っていることに間違いない。だからあたしは聖を見れない。


………………
 山形先生を巡っての先輩方の喧嘩は、山形先生のお見合い話でなんとか終結した。まぁ本当言うと、最後には山形先生がキレて部の存続の為に仲直りした、そんな感じ。
 そんな全てが円く収まった後だった。何故かキョースケの機嫌が悪い。
「なぁにイラついてんの?」
「別に」
 合奏も終わってちらほら帰り始める部員の中で、荒々しくティンパニを叩いている。自由曲の冒頭のソロの練習…のはずなのだが…
「嘘!表情がいつもと違うもん」
「激しいソロだから、きっとそのせい」
「でも…音、いつもより…」
「汚いんだろ」
 投げ捨てる様に言った言葉が痛い。
「…ねぇ、どうしたのさ?らしくないよ?」
「そういう時もあるんだよ」
 何を聞いてもはぐらかす答えで、いそいそとティンパニをしまうキョースケ。
 押し問答はキョースケが準備室の鍵を閉めるまで続いた。部員達は、いつもの事かと笑いながら帰って行く。
「だから、たまには相談してよ、キョースケ、言いなさいよっ」
「イチコ、それは脅迫に近いって。」
 なんか意地になって来た。
「うーっ。キョースケぇ」
「イチコに言わないんじゃなくて、たとえば陸やそれ以外の友達でも言いません。」
 ズキ…胸に骨が刺さった感じ。あたしはキョースケにとってどの位置にいるんだろう。
 自分の気持ちを棚に上げ、友達とくくられた事に胸が痛んだ。
「……」
「…イチコ」
「じゃあ…友達だから言えないの?」
 あたしはキョースケが好きなのか聖を忘れられないのか、ハッキリしなくてはいけない。
「へ?」
 廊下の真ん中で、他の吹奏楽部員が挨拶を交わしながら帰って行く。


想いを言葉にかえられなくてもの最初へ 想いを言葉にかえられなくても 44 想いを言葉にかえられなくても 46 想いを言葉にかえられなくてもの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前