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想いを言葉にかえられなくても
【学園物 官能小説】

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想いを言葉にかえられなくても《トロイメライ》-11

 ふと、気付くとキョースケがいつものように頭を撫でてくれる
「ありがとな。…俺さ、イチコと同じなんだ。好きで、本当に好きで。それだけじゃ我慢が出来なくて…形が欲しかった。恋人だと語れる、形が。……俺も特別になりたかったんだ」
 見上げると、眉間に皺を寄せて泣きそうな顔をしてる。泣くのを我慢してる小さな男の子だ…。
「泣いてもいいよ?」
 キョースケの頭をさわさわと撫でる。茶色がかったサラサラの髪の毛が震える。
 …静かに、キョースケは泣いた…


「ねぇキョースケ」
「ん〜?」
 ソファーの上でアイスノンで目元を冷やしながらキョースケが返事をする。
「ごめんね」
「何が?」
「あたし、好きな人がいるの」 
「は?」
 驚いてこっちを見るキョースケ。アイスノンで冷やした甲斐があったのか、赤みは消えている。あまりの驚きぶりについ笑ってしまう。
「ずっと好きだったんだけど、逢えないし苦しいから逃げてたんだ。自分の気持ちに。」
 神妙な顔つきのキョースケ。
「じゃあ、さっきのは…冗談?」
「違う違う!ちゃんとキョースケが好き。これは本当。……ただ、心から好きだと確信出来なかったの。この三年間、ずっと。」
「……」
「キョースケの温かさが嬉しかった…。ずっと、キョースケと付き合えたら幸せになれるかなぁって思ってた。」
「…ごめん」
 申し訳なさそうな顔つき。本当、生真面目なんだから。
「ふふっ、謝らないで。あたし正直…自分の気持ちにちゃんと向き合えて良かったって思ってるんだし。」
 すうっ…と息を吸う。
「前に進むのは、自分の気持ち次第だって気付いたから。…ずっと想ってようって決めたから。」
「そっか。決めたのか」
「うん。決めた」
 口許が緩む。なんだ、こんなに簡単な事だったのか。胸の痛みも無くなって、心が軽くなった気がする。
「で、俺よりも好きな奴って誰?」
「……聖…。知ってるかな?酒井 聖二って」
「酒井 聖二って?」
 知らないのか…。クローゼットのカラーボックスから1冊の雑誌を出す。随分色褪せた…聖を見ないと決めた日以来。最後に買った雑誌「Mr.」……。
「はい。」
「モデル?」
 巻頭に『注目!酒井 聖二の素顔!!』と出ている。
「二年くらい前の雑誌かな?最近は避けてたから、よく解らないけど…。ドラマとかちょい役で出てるみたい。」
「……かっこいいな。」
「うん。本当に……遠いね…。次元が違うんだよね、こういうの…」
 喉の奥がジリジリ痛い。涙腺が緩む…。
「でも、好きなんだろ?」
 コクン、と頷く。
「む…迎えに来るって約束したの…。二十歳になったら……って…。」
 最後の方は言葉にならなかった。思い出すと涙が溢れてしまうから。
「…そっか。うん。もうわかったから…ほら、泣いちゃえよ。な?イチコ。」
 抱き締められた腕の中は、キョースケの優しさが溢れていて、あたしの我慢していた涙が溢れていった。
 『イチコは小さいんだから…』あの日と同じ温かさだった。


………………
 あの日からキョースケがバイトに励むようになった。
 あたし達が私服になると、キョースケはバイトに明け暮れ、授業も部活も出ない日が多くなった。
 聞いてみると、ずっと好きだった人と、結婚するんだってコッソリ教えてくれた。なんと出来ちゃった結婚!四年生の十月に届を出したそうな。


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