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果葬 ―かそう―
【その他 官能小説】

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―2―-2

 そんなやり取りの中、車は大きな交差点で赤信号につかまった。二人同時に車外の景色を物色する。

 飲食店の入った小さなビルから、それなりに名の知れた高層オフィスビルまでが、まるでブロックのパズルゲームでもしているみたいにびっしりと建ち並んでいる。

 企業がどれだけ成長しようが、社屋の底辺が限られているため、こんなふうに上へ上へとフロアを積み上げていくしかないのだ。
 日本は狭い国なんだなと、沢田はあらためて実感した。

「おい、沢田」

 半身を起こした大上が、遠慮がちに窓の外を指差す。

 何事かと思った年下の相方がそちらを窺うと、スーパーの買い物袋を提げた二十代くらいの喪服姿の女性が、ちょうど横断歩道を渡るところだった。

 袋の中身が赤く透けて見えているのは、おそらく林檎で間違いないだろう。

「あれが噂の未亡人ですかね?」

 沢田が頬肉をゆるめると、

「どうだろうな。もしそうだとしても、あんな恰好で外を出歩いた日にゃ、目立ってしょうがないだろうに」

 大上の口調はぶっきらぼうである。

「上着の一枚でも羽織れば間に合うじゃないか。それなのになあ」

「仕方ありませんよ。心痛で、気がまわらなかったんでしょう」

 沢田は自分で言いながら、前を横切っていくその異様なまでに美しい女性のことを、卑しい目で見つめている自分に気づいた。
 それでも視線を逸らせることができないでいる。

 黒い蝶が花から花へと渡っているのだ──沢田の脳裏にはそんなイメージが湧き出していた。

 ふとしてとなりを見ると、大上の皺の深い顔面がこちらを向いていた。

 取り繕う間もなく、

「よそ見してると、ろくなことにならんぞ」

 という台詞を聞かされる沢田。

「な、なんのことです?」

 沢田がとぼけていると、

「信号、青だ」

 言いながら大上は二本目の煙草を口にくわえた。


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