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追憶
【その他 官能小説】

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追憶-2

仁は何も言えなかった。有香も声が出なかった。とっさに体をバスタオルで隠すのが精一杯のようだ。目と目が戦っていた。視線を先に外したのは仁だ。机を見つめて、机上を手で意味もなく撫でてると、バサッと音がした。有香がバスタオルを床に落としたのだ。その裸身を仁は端から端まで鑑賞した。変わっていない。あの頃と肉体は変わっていない。Aカップの微乳だが、乳首は突き出ていてまるで男からの愛撫を待っているようだ。
 仁はゆっくりと有香に近付き、しゃがみこんで陰毛にキスをした。さらに指でワレメをこじ開けてクリトリスをしゃぶった。そのまま肌を舐めながら上に上にと向かい、そして乳首を吸い、軽く噛みしめた。有香はただ立ち尽くして何もできずにいた。だが声が荒くなっていった。そして初めて発した言葉は
「縛って・・・」
だった。13年前の関係はSとMまでいっていたのだ。有香は箪笥の引き出しから破れたストッキングを何枚も出した。13年前、仁が破れたストッキングは捨てるなと言っていた。縛るのに丁度いいからだ。別れたあとも有香はストッキングを捨てなかったのだ。
 有香の手首を背中に回してしっかりと縛った。そして顔を床に付け、尻を仁のほうへ向け突き出した。
「叩いて・・・」
さらに仁は自分のズボンから皮ベルトを外すと有香の尻に向けて思い切り叩いた。一つ、二つ、三つ、心地よいリズムで有香は叩かれていく。叩いた分だけ、二人の距離は短くなっていく。十発めを叩いたとき、有香がストップをかけた。
「もういいわ・・・」
仁は有香を抱きしめてそのまま倒れ込んだ。言葉はいらない。ただ肌と肌を合わせたかった。布団を敷き二人とも全裸のままもぐりこんだ。

「あの映画なんだっけ?」
暗い部屋の中で有香が仁の耳元で囁く。かつて二人はよく名画座に行った。ロードショーものじゃなく、古いの映画が二人とも好きだった。
「あの映画って?」
「ロバート・レッドフォードが出てて・・・」
「ああ『追憶』?」
「そうそう。何かラストがせつなかったよね」
「あのテーマソング泣けたな」
「主演のバーブラ・ストライザンドが歌ってるんだよね」
「俺たちの過去ももう追憶になってしまったな」

有香は何も答えなかった。13年前一体何があったのか、結局仁は聞くことはしなかった。そして朝が来た。

「有香」
「何?」
「もう一度やらしてくれ」
そうして仁はまた有香を抱いた。有香の体中を舐めまわした。舐めてない所なんてきっとないぐらいに舐め尽した。バックからグイグイと挿入すると両手で有香の両乳房をしっかりと掴み、激しく突いていった。首筋にキスをしてそして指先で乳首を弄りながらも乳房をぎゅっと握った。仁は一突き一突き、しっかりと力を込めた。
「そのままいっていいよ」
「え?」
「中でいいよ」
有香に言われるままに仁は有香の中で果てた。

「もう行くの?」
有香は布団の中から玄関にいる仁の背中を見た。仁は何も答えなかった。
「また来る?」
その質問にも仁は無言だった。やはり年月を埋めることなどできなかったのだろうか。
「仁は結婚してるの?」
その質問には少し間があってから仁は答えた。
「ああ。子供も一人いるよ」
仁はもしまだ独身と言えば有香はきっと自分を責めるだろうと思った。
「そうだよね。13年もたったんだもんね」
仁は玄関を閉めた。道に出てから手の甲で目を覆ったのは朝日が眩しかったからではない。涙が止まらなかったのだ。
 
その日の夕方、仁は新宿駅の中央本線下りホームで友人に目撃されたのを最後に一年たった今も消息不明である。


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