投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

青い夏休み
【その他 官能小説】

青い夏休みの最初へ 青い夏休み 9 青い夏休み 11 青い夏休みの最後へ

まさかの自由研究-5

「その前に約束して。これはお姉さんときみだけの、2人しか知らない秘密よ。いい?」

「うん……」

 無言の時間がやって来ると、クマゼミのオスの大合唱が窓の外から聞こえてきた。
 メスが鳴かないことを健太郎は知っている。

 クーラーが効いているのにちっとも涼しくならないのは、体温とは違う熱のせいだろう。

 花の匂いが一層つよくなる。

 遥香は制服のボタンをはずして、ベストを脱いだ。

「暑いの苦手だから、ごめんね」

 そうことわる遥香にはすでに、切なげな笑みが浮かんでいる。

「お姉さん、悲しいの?」

「どうして?」

「だって、泣きそうな顔してるもん」

 健太郎の言うとおり、遥香の両目は潤んでいた。

「じつは、目の中にまつ毛が入っちゃったんだ。それをきみに取って欲しくて」

「いいよ」

 そんなことなら朝飯前だと鼻をふくらませて、健太郎は年上のお姉さんの瞳をのぞき込む。

 まるできれいなものしか見てこなかったような澄んだ瞳が、まっすぐこっちを見つめ返してくる。

「やさしくお願いね」

 甘味料をたっぷりふくんだ甘い声で、小学生相手でも主導権をゆずらない遥香。
 こういうときにこそ、大人げない自分が出てしまうことをよく知っている。

「どっちの目が痛いの?」

「うんとね、きみから見たら左の目。だから──」

「右目だね」

「うん」

 そんな会話を交わしながらも、わかりやすいくらいに健太郎は動揺していた。

 もっと近くで見ようと思って顔を接近させると、相手の顔のどこにどんな色の化粧が塗ってあって、唇がどんなにやわらかい素材でできているのかまでもが、わかりそうな気がした。

「まつ毛、入ってなさそう?」

「ええと、うんと、なかなか見つかんない」

 恥ずかしい気持ちを押し隠して、少年は一途に捜索活動をつづける。


青い夏休みの最初へ 青い夏休み 9 青い夏休み 11 青い夏休みの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前