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贅の終焉
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唐突-5

==心揺==

10:00過ぎてしまったけれど、藤沢さんもまだいらっしゃらないようだ。
とりあえず、案内された席についてコーヒーをオーダーした。
藤沢さんが遅れるとは珍しいのだろうか、約束は守る几帳面な方のようだが。
コーヒーが運ばれた時、爽やかな笑顔で清潔感あふれるウエイターに
メモを手渡された。
「来てくださって本当にありがとうございます。ゆっくりとコーヒーを楽しまれてから2755室においでください。
お待ちしています。藤沢」

来てしまったけれど、先日もイタリアンのランチをいただきながらお話をしただけで
今日の約束をしてしまって・・・特別な覚悟も意味もなく来てしまったけれど。

喫茶での約束だったから、またお茶を飲んでお話をして・・・・
とりあえず、そんなことしか予測できていなかった。

2755室
待っている。

そう、前回に帰り間際に渡された封筒。ワンポイントのプリントが可愛い花柄になっていて
思わず受け取ってしまった。
殺伐とした茶色や白の封筒ならば、あまり気持ちの良いものではないと感じたかもしれないが
女性らしさを意識した封筒をわざわざ選んでくださったようにも思い、お手紙などが入っているかもしれない
そんな感じで受け取ったが実際には手紙の類はなく、くっついていて薄く感じるほどの新券の10枚。

これをいただく理由は、やはりない。とお返しするつもりでそのまま持参した。
部屋に直接来るように指示されるとは考えてもいなかった。
密室に招かれるということに不安がないといえばうそになるが、恐怖とか危機感というものではなかった。
躊躇がある。
そう、藤沢さんに対してではなく、自分自身に対しての躊躇、不安である。
この 第一歩をすすんでいいのか
迷いが取り除けないまま 実際の足はその一歩を進みだしていた。

エレベーターの27階を押す。最上階である。
行ったことのない世界。最上階というこの場所も、この知られざる自分自身の行動の行方も。

2755 さっき、コーヒーと水も飲んだところなのに喉の奥がくっつきそうなほどに乾いた。
ここまで来ると躊躇していたものが、一気に焦りとなってチャイムを押す。

ドアを開かれるまで何秒だったのだろう、後悔に飲み込まれるほうが早かった。

お待ちしていました。どうぞお入りください。
どうしたんですか、すごく不安な顔をされてますよ。
大丈夫です。貴女が嫌がることや困ることは何も強要しません。
それとも、引き帰されますか?

大丈夫ですか。では、まぁ、ゆっくり腰かけてください。
何か飲まれますか?
お腹は空いてませんか?
ルームサービスをご用意しますよ。

お水でいいのですか
それなら、部屋の冷蔵庫にもあります。
どうぞ。

少し、落ち着かれたようですね。
ああ、いいお部屋でしょう。
広々としてて静かなので、普通に商談などにも利用することがあるんですよ。

逆に慣れると安心感があるんですよね。
邪魔されることがないというか、雑音が入らないというかね。

そうでしょう。ここは最上階ですから、夜景は特にキレイなんですよ。
貴女とご一緒に夜景を観られたらどんなに素敵でしょうね。
考えただけで、なんだか最高の幸福感に圧倒されてしまいます。

私のマンションも高層なのですが、ここほどではありませんし
ここなら、食事をしても洗い物は出ませんし、シャワーをしても洗濯が増えませんしね。
いいでしょう。
たまには・・・ですけどね。
 

やはり、長期となるとどんな立派な部屋でも味気ないものですよ。
貴女はお料理は得意ですか
いやぁ、いいですね。家庭料理が一番です。ご主人が羨ましい。
おっと・・これは禁句ですね。失礼いたしました。

今日も外は暑かったでしょう。
今日も素敵な装いですね。貴女はとても上手にご自分を表現される。
いやいや、高価か安価は全く関係ないですよ。派手も地味も関係ない。
貴女によく似合っています。貴女はご自分のことをよくご存知なのですよ。

年齢も体型も関係なく、どうも服装としっくりこない方もいらっしゃいます。
いやぁ、私がエラそうにいうような話ではありませんでした。失礼いたしました。
貴女が好きだから欲目で何でもよく見えているのでしょうか?
それにしても、今日のブラウスもスカートも品があって可憐で、それに
よくわかりませんが、セクシーです。 イヤラシイ意味で情欲をそそるというのではありません
どことなく、女性らしい柔らかさが感じられます。

いや、そんな。
太ってなんていらっしゃらないですよ。ふくよかさは女性の特権です。
貴女の魅力の最たるところです。温かさや優しさを表しています。

私が得た働きの意味をもたらすために、貴女を包む全ての装飾をプレゼントさせていただきたいほどです。
どうされましたか
それは、先日お渡ししたものですね。気を悪くさせてしまいましたか。
いえ、お願いします。先日も申し上げたように今日明日があってないような私です。
一日、一日を悔いたくないというわがままをどうか受け入れてください。

貴女はこうして、私のわがままを受け入れてくださって、わざわざ来てくださった。
先日もです。貴女の貴重な時間を今を、この瞬間を、私にはかけがえのないものを与えてくださってます。
私には何のお礼ができるでしょう。そんなものは紛らわしく些細なものです。

どうか、くれぐれも それらが貴女の価値であるとは誤解しないでください。
私の気が済むものでもありません。ただ、受け入れていただけると本当にありがたいのです。



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