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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第16話-16

「安原、イニングをまたぐが、水野でいいのか?」
「ええ。ここは、葵しかいません」
 捕手の二階堂が確認してきたことに、誠治は力強い頷きを返していた。イニングをまだ3回も残している状況で、葵にスイッチした経験はこれまでないが、控え投手の中で最も実力があるのは、故障している関根を除けば、葵しかいない。
「ピッチャー交代!」
 そして、右翼を守っていた葵が、マウンドに呼ばれた。
「水野さん、たのんます!」
 福原が、自らの手でボールを葵に渡す。“回生”では同じだが、“学年”で言えば、葵はひとつ上になるから、福原の語尾は、先輩に対するものと等しくなっていた。
「………」
 葵は、グラブでそれをしっかり受け取ると、福原の奮闘をねぎらうように、彼に向かって柔らかな微笑みを浮かべて見せた。
「「「!!」」」
 葵の微笑が、誠治以外の人間に向けられたときは、決まって、何か相手を見下したような“冷たい”ものだった。しかし、福原が受けた葵の笑みには、相手をいたわる“暖かさ”がこもっていた。
(水野、本当に変わったな……)
 無口なのは相変わらずだが、他者を寄せ付けない雰囲気はなくなっていて、それがマウンドに集まるメンバーたちに、葵を守り立てようという気概を植え付け、一体感を生じさせた。これも、前期の試合ではなかったことだと、六文銭は思った。
「ここで切って、次の回につなげますよ!」
「「「オォ!!」」」
 誠治の一声を最後に、マウンドを託した葵をその場に残して、野手陣はそれぞれの位置に散っていった。
「………」
 葵は念入りにマウンドの感触を確かめている。リリーフとして登板する機会が多かったので、ある程度踏み荒らされた状態となっているマウンドに、自分の足がしっかりとフィットするよう、調整するということを忘れなかった。
 リードを許し、さらに三塁に走者を抱えている中で、なかなかの落ち着きようである。
「プレイ!」
 儀式のように、“オーバー・スロー”による所定の投球数を追え、主審の声を受ける形で、葵はプレートに足をかけ、セットポジションに構えた。
「!」
 ふわり、という擬態語があてはまるくらい、優雅な始動によって、葵の投球モーションが始まる。柔らかいその身体を最大限に活かした体の捻りから、その全身が大きく沈み、左腕が地面すれすれの低い位置まで“ぐっ”と降りて、そのまましなやかに振りきられた。
 葵は、“左の下手投げ”という、ほとんどお目にかかれない“変則投手”である。しかも、リリーフを専門としているので、公式戦でも対戦することはわずかしかない。
「ストライク!」
 2番の東尋は、左打者なので、背中から抉ってくるような球筋のそのストレートに、思わず腰を引いていた。しかし、その鋭い角度がストライクゾーンを最終的には掠めていたらしく、主審の手は高々と上空に挙がっていた。
(あれは、葵でなければ、取れないストライクですね)
 左腕の変則投手は、微細なコントロールに苦しむことが多い。しかし葵は、その変則的な投球フォームにも関わらず、針の穴を通しきるような、精密な制球力を有していた。


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