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想いを言葉にかえられなくても
【学園物 官能小説】

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想いを言葉にかえられなくても《冬の旅‐春の夢》-2

 真っ黒で細身。第一印象は繊細そう。黒のスーツに黒の解禁シャツ。作家なのに肌は褐色で髪も真っ黒。
 顔は面長では無いが頬に無駄な肉が無い為、鋭く見える。サングラスも真っ黒で瞳が見えないが私を一瞥してる様でゾクゾクした。
 字幕スーパーに書店の場所とサイン会の日程が記されていた。
 私は何度も何度も字幕を口の中で呟き、篭崎龍奏を見つめた。
 写真を撮られても1mmも表情を崩さず、ただ淡々と作業をこなしている様に見えた。
 胸が高まる。心臓がバクバクと音をたて体中の血液が波打っている様だ。
 会いたい
 サイン会に行くしかない。
 画面が移り変わり交通情報に移ったので、口の中で呟いていた言葉をメモに書き写した。
 明日…
 明日の十一時から…
 たった十五秒前後で心を奪われた。こんなに強い衝動に駆られたのは初めてだった。
 二十歳の冬。
 これが人生の転機だった。
………………
「千鶴、私…明日は学校来ないから」
 十二月なのに暖かい、太陽が燦々と降り注いでいる教室、窓側、一番後ろ、の特等席で私は友達の千鶴に言った。
「ふぅーん。まぁ、たまに休んでも良いんじゃない?」
 ニコニコしながら千鶴は携帯をいじくっている。多分相手は年下の彼氏だろう。
「でも珍しいねぇ。紫乃が休むなんて。真面目に毎日通ってたのに」
「ちょっとね。用事があって。出席日数も大丈夫だし。推薦入試まで時間あるし、少し息抜き」
「紫乃は明日からずっと勉強しなくても大丈夫だよ。推薦試験だって余裕なんだから。」
 橘高等専門学校はその名の通り高校と専門学校が一つになった学校だ。三年までは制服の規定も有り、四・五年は私服。何の専門学校かと言うと、機械・化学・建築・情報と…まぁ簡単に分けるとこんな感じ。私は情報コミュニケーション科で外国語を中心に学んでいる。私の様に専門学校から大学に受験する人も少なくは無い。
「はぁーあ、5年間も勉強してきて、更にこれから四年も勉強するなんて私には信じられないわ」
「千鶴は語学力が有るからいいのよ。大手企業の受付嬢でしょ?内定決まったのは。海外の顧客も多いし、やり甲斐有る仕事よね。」
「まぁ、一応帰国子女でフランス系クォーターですから」
 明るくて美人。吹奏楽部の部長もやっていた、誰からも頼りになる…そんな千鶴。正直、羨ましい。
 それに比べて私は…。自分に自信が持てない臆病者だから、成績に問題は無いけどこうして毎日学校に来てしまう。
「でも、なんで明日なの?」
「ちょっとね。用事が出来たのよ。」
「怪しいなぁ。もしかして…オトコ?」
 グイッと親指を立ててニンマリする千鶴。こういう時だけ勘が良いんだから。
「御想像にお任せします」
「冷たいなぁ」
 ガックリした表情は浮かべているものの、右手の親指は軽快に作動している。まったく…
「千鶴こそ、例の年下君と卒業しても大丈夫なの?」
「しーーっ!!なっ、こんなとこで喋らないでよっ!!」
 この慌てよう、かなり惚れているのだろうな。意地悪でわざと周りに人が居るのに言ってやった。
「みんなには内緒なんだから!わざとでしょ!紫乃の意地悪っ」
「ごめん、ごめん。さっきから携帯に夢中みたいだし…彼、なんでしょ?」
「…うん。最近、バイトと部活に忙しくてなかなか時間が無いから…こうやって授業中にメールしてるの。」
「彼、まだ三年生だよね。専攻は機械科だったっけ」
「うん。今、簡易ロボット作ってるんだって。」
 はにかんだ笑顔で彼の話をする。なんで秘密にするのかが不明だ。まぁ、考え方は人それぞれだから仕方ないけど。
 千鶴ののろけに耳を傾けながら想いにふける。
 明日かぁ…考えるだけで胸が苦しい。どうしよう…。


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