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双葉さんと汎性の『あなた』
【同性愛♀ 官能小説】

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後半-1

「私はこの世界以外の世界から来ました」
「『あなた』は嘘を言う人ではありません。『あなた』が宇宙人でも私は構いません」
「この宇宙でもありません。まったく違う世界です。
『全』の世界です。ここは『個』の世界です。『個体』、『個別』の世界です。
私は『個』の世界を知るために来た、『全』の一部です。
いずれ帰って、『全』に『個』の世界がどんなものであるかを伝えなければいけません。
例えるなら、人類が宇宙探査機を使って、天体を探査するようなものです。

『個』である人類を知るために、私は男性でもあり、
女性でもある汎性の『個』の姿になりました。
『全』の一部である私にとって、『個人』になったり、名前を持ったり、
『個』を強く意識してしまう、触れ合うといった行為は恐怖を伴うことなのです。

私は『個人』である、あなたたち人類を尊敬します。
『個』であるということは尊いことです。
寿命を持ち、たった一人で生きていくことは、非常に困難なことです」
「では、『あなた』に去られて一人になってしまう、私の苦しみは理解してもらえますか?
『あなた』はどうしてもこの世界には、いられないのですか?」
「申し訳ない、私は『個』の世界の住人ではないのです」

「悲しい…。私はとても悲しいのです。
やっと見つけた愛する人、尊敬する人が去ってしまう。幸せが消えてしまう」
「…察します。私は『個人』を深く知るために、双葉さんをいわば、利用しました。
償いはしなければいけません。双葉さんは得難いことを私に教えてくれたのですから。
双葉さん、私たちの間の子供がいたら償いになりますか?」
「…はい。『あなた』との子供がいたら、さみしく無いと思います。
『あなた』が確かにいたことを思い出せます」
「解りました。これから双葉さんに触れます。怖がらないでください」

『あなた』は私の内手首をそっとつかみます。
初めて私たちは触れ合います。暖かい、私たちと何も変わらない手です。
しばらくすると、『あなた』の手のひらと私の内手首が、
溶けてつながっているような感じがしてきます。
ですが、『あなた』が手を離しても、私の内手首には何の変化もありません。
ただ、『あなた』の手の暖かさが残るのみでした。

不思議なことが起こります。私は妊娠します。
もちろん男性と関係をもったことはありません。処女懐胎です。
『あなた』が言ったことは本当だったのです。

無事出産をします。生まれた子供に、美さきと名づけます。
『あなた』はやはり、美さきにも触れませんが、大切にしていることは伝わってきます。

ある日、美さきは階段から転げ落ちます、私の手は届きません。
すぐに気が付いた『あなた』は、その姿をしゅっ、と消し、
現れ、美さきを抱き止めてくれて、事なきを得ました。
一度だけ、『あなた』は美さきに触れました。

「そろそろ美さきが物心がつくようになってしまう。
余計に別れ難くなってしまう。去るべき時が来たようです」
「とうとう、この時が来てしまったんですね。
今では『あなた』が『個』の姿になる大変さも少し理解できます」
「ありがとう。
相手を理解するというのは、相手の気持ちを思いやる、儚く、美しく、合理的な発明です。
私たちの世界に、大切に持ち帰りたいと思います。
それでは双葉さん、私の目を見てください」

『あなた』の目は灰色のような、青のような色をしています。
眸以外の景色がスーッと引いていきます。
吸い込まれます。引き込まれます。
「双葉さん。私のことを忘れる必要はありませんが、他言はしないでください。
それと、双葉さんの口座に多すぎない額を入れておきます。
大変だとは思いますが、お金は多いと良くないものらしいですから」
「はい…」

こうして『あなた』は私たち母子のもとを去っていきました。


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