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パック旅行と受賞映画
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ニュース-1

勤め先が人に会わずにすむ倉庫番であることが幸いして、次の日誰からも顔の傷を見咎められることはなかった。

後日整形外科に行くと足と腕が1箇所ずつヒビが入っていた。

痛かったはずだ。

ニュースでは事故のことが大々的に報じられていた。

現場には事故直後の画像も出ていて、状況の説明が流れていた。

事故を通報してくれた男性がいたこと。

何者かがバスの乗客や運転手をバスから外に出してくれたこと。

救急車が現場についた時には通報者の姿も、人々を救い出した人物の姿もなかったということ。

レポーターの顔が大きく映されると震える声が響いた。

「事故を通報した男性は冷静にバスの中の乗員の数とバスの危険な状態を報告し、その後、滑落しつつあるバスの中から乗客を1人ずつ救い出したのです。

そして恐らく最後の1人を救い出した直後、彼は近づく救急車のサイレンを聞きながら車でその場を去って行ったのです。

路肩に停めてあった車がそこから逆方向に走って行った痕跡がありました。

また救急車の乗員は現場に着く直前にバスが転落する音を聞いています。

また走り去って行く車のエンジン音も聞こえたと言います。

何故このような英雄的な行為をしたのに、彼は名も告げずに去って行ったのでしょうか?

事故分析の専門家の分析によりますと、この謎の人物は乗客と運転手を救い出すのに命がけの行為をしたに違いないと言っております。

そしてその体力は人並み外れたものだったと想像されます。

けれども乗客も運転手も気を失っていたりショック状態だったため、誰に助けられたか覚えていなかったということです。

どうかこの放送を聞いていたなら、名乗り出て下さい。

そして救われた人々の感謝の言葉を受けて欲しいと思います。

県知事は感謝状をその人物に贈りたいとコメントしております」

私は照れくさいから名乗り出ないことにした。

その場を逃げるように立ち去った時点でそういう面倒なことは嫌だと拒否したのだから、それを貫きたかった。

私も世の為人の為になったという満足感。これで十分だと思った。

それを名乗り出た場合、さまざまなことで人々の尊敬を受けるだろう。

感謝されるだろう。テレビに出演したり、本を書いて出版したり。

講演会に出たり……でもそれは私の静かな生活が壊されるということだ。

感謝されるのは落し物を拾って届けたら落とし主にお礼を言われたくらいで良い。

人の命を助けるなんて、宝籤の一等に当たったくらい大それたことで私の平穏なライフスタイルが狂ってくるような脅威を感じる。

この次同じことがあったら、通報だけして何もせずに逃げよう。

その度に自分の命を危険に曝すなんてとんでもないことだからだ。

名乗り出たら私はそういう人間に見られて、いつも自己犠牲的な英雄的な行為をする人間として期待されるだろう。

私にはそれが重い。重すぎるのだ。似合わないことをしてしまった。

たとえそれが良いことでも、自分に似合わないことをすれば自分が自分でなくなる。

私は自分のままでいたい。

人命救助をしたのは、たまたま魔がさしたのと同じなのだ。

この場合、神が降りたのか? 

だが2度目があるとは限らない。むしろ2度目はありえない。

私はそういう理由でダンマリを決めることにした。




 


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