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パック旅行と受賞映画
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3日目-1

そして3日目になった。

2泊3日の小旅行も終わりに近づき、昼過ぎに私は彼らと別れることになった。

なぜかと言うと午後からの空港まで行く他の客と違って私はここがほぼ地元だからだ。

私は彼らと別れて駐車場に置いた自家用車に乗って帰るだけだ。

1時間ほどで自宅のアパートに着く。

私は他の8人に挨拶をするとバスを後にした。

 歩いて5分ほどで駐車場に着き車を走らせたが、ふと旅行の行程表を見ると晴れている場合T岬の方を廻ってから飛行場に行くと書いてあった。

あそこへ行く道は狭くてカーブが多い。

また事故の多い所で崖から転落する車が年に1・2台ある。

私はなんとなく胸騒ぎがしてそこを行ってみることにした。

少し逆方向になるがどうせ今日は他に用事もない。

T岬への観光道路は予想通り悪条件だった。

昨日の雨で路面が冠水したらしく、ところどころ泥で汚れている。

一応舗装はされているが路肩が弱くなって緩んでいる。

大型バスはすれ違うことができないという狭い道幅の上、30km制限の連続カーブが続く。

私は慎重に運転して行った。

T岬を過ぎれば道幅が広くなり安全になるが、それまでは気が抜けない。

そして何十ものカーブを曲がったとき、バスを目にした。

路面が泥で覆われている場所でブレーキを踏んでカーブをスリップしたのだろう。

180度スピンして後部が崖に落ちかかっている。


きっと制限速度以上出していたのだろう。

私は路肩に車を止めるとバスの中を見た。

事故からもう数分経っているに違いない。

しかもこのバスはLT社のパック旅行のバスだ。

私が乗っていたら同じ目にあっていただろう。

運転席側のドアに手をかけるとうまい具合に開いた。

だが中の状態は最悪だった。

高速道路ではないのでシートベルトをしていなかったので床に放り出されて倒れている人が多かった。

運転手はフロントガラスにぶつかったのだろう。ガラスにひびが入っていて額から血を出していた。

水木女史は前の方の席で目を閉じて苦しそうに唸っている。

私はすぐ携帯電話で救急車の出動要請をした。

場所もできるだけ正確に告げて事故の情況も告げた。

だが、救急車が間に合わないかもしれない事態が起きつつあった。

バスの傾きが次第に大きくなって後輪が崖の下に滑って行く気配がしたのである。

崖からバスが滑落すれば、中の人間はまず助からないだろう。

この場所は魔のカーブと言われて最も事故が多いところだ。

私はバスの周りを見渡した。大きな岩が5・6個落ちていた。

50kgから60kgはある岩だ。

私は持ち歩いていた腰ベルトを身につけると岩の1つを持ち上げてバスの中に入った。

そして運転席の近くに置いた。けれど1個くらいでは傾きを元通りにできない。

私は急いで他の岩もバスの中に運んで前の部分に置いた。

後方に滑らないように座席の間に置いた。

私はその後バスの中央より前に倒れている人をもっと前の方に移動させた。

少しでも前の方に重心を持って行き、滑落を防ぐ為だ。

その後中央より後方に倒れている人を慎重に前方にずらして行った。

バスがグラグラ揺れて不安定なので気が気ではない。

だがこんな条件の悪い時に観光道路を通りかかる車は他にはない。

あったとしても、恐らくどうにもできないだろう。

バスは滑落しつつあるのだから。

私は最後の1人が神埼青年であることに気がついた。

彼はどう言う訳か一番後ろで倒れていた。そこまで行くと私の体重がバスの後部にかかり滑落しやすくなる。

まだ乗客を1人もバスから出していない。下手をすると私を含めた10人全員がバスごと崖下に転落するのだ。

私は急いだ。

重心を前に移したとはいえ、泥で路肩は壊れていて滑りやすくなっている。

私は慎重に四つん這いになって後部に近づいて行った。

そして神埼青年の足を掴むと四つん這いのまま引きずった。

グラッとバスが揺れた。生きた心地がしない。

私はバスの前方まで神埼青年を引きずった後、そのまま彼を抱えてバスの外の地面に横たえた。

それから先は無我夢中でよく覚えていない。

バスの前方に固めておいた乗客を次から次へと外に運び出した。

さいごに水木女史と運転手の順に運び出す積もりだった。

水木女史を運び出した時、バスがズルズルと滑り出した。

私はバスに飛び乗って運転手の体を掴んだ。

そして出口から放り出した。バスが大きく揺れた。私は飛び降りた。

私の体は斜面に叩きつけられ滑り落ち始めた。

私は泥まみれになりながら崖斜面に必死にしがみ付いた。

そして木の枝を掴んだとき、滑り落ちて行くバスの大きな転落音を耳にした。

私は無我夢中で崖を這い上がり、最後に放り投げた運転手をもっと安全な場所に移した。

彼は崖の縁に半身を横たえていたので、放っておくと滑落してしまうからだ。

その時救急車のサイレンを聞いた。

私は何故か自分の車に飛び乗り反対方向の道に逃げた。

運転手を放り投げたことに気が咎めたせいかもしれない。

幸いカーブが多い道なので走り去る私の車は見られなかったと思う。

私は広い道路に出た後車を止めて泥だらけの服を脱いで新しい服に着替えた。

無人のパーキングのトイレで顔を洗ったが、擦り傷があちこちについていた。

家に帰ってからよく見ると手足や胴体の至るところに打撲の跡が紫色の斑模様になっていた。

夢中になっていたので痛みも感じなかったのだろう。

だが後から痛み出して体中湿布だらけになった。

 


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