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そこにある愛
【コメディ 恋愛小説】

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そこにある愛-10

「ここ、空いてますか?」


耳に心地よく響く低い声に顔を上げると、あたしはそのまま固まってしまった。


細身で長身、耳にかかるかかからないかぐらいの髪の毛は明るい茶色で柔らかそうな畝を作っていて、パリッとした白いシャツから覗く鎖骨がまたセクシーで。


小さい顔には切れ長で鋭い眼差し、筋の通った形のいい鼻、薄い唇が黄金比のごとく絶妙なバランスで配置されていて、そのまま彫刻になって美術館に並んでいてもなんらおかしくないほど綺麗な男の人だった。


本当に自分が話しかけられたのか信じられなくて、キョロキョロ辺りを見回す。


しかし、どうやら該当するのはあたしだけだ。


しかもよく見れば他にも空席はたくさんある。


なのにあたしにわざわざ相席を求めてくるってことは……。


見つけた、あたしの王子様……!


人生初のナンパのお相手がまばゆいばかりのイケメンで、すっかり舞い上がって返答しなかったあたしに、彼はもう一度“相席してもいいですか”と訊ねてきた。


「はっ、はい! 空いてます!!」


興奮のあまり、声が裏返ったあたしに、彼はクスッと笑うと


「じゃあ、失礼します」


と言ってから、向かいに腰掛けた。


王子様の名前は、誉(ほまれ)さんと言った。


K大の三年生で、文学部に所属しているそうだ。


すかさず木漏れ日の降り注ぐ公園で、寝そべりながら本を読む彼のイメージが湧いて、鼻息が荒くなる。


素敵、この人素敵過ぎる……。


今まで元気のもさい顔しか見て来なかったから、誉さんの都会に洗練された美しい顔を見てるとポーッと頬が熱くなる。


彼の話はユーモアがあってスマートで、ほんの数分間話しただけなのにみるみるうちに打ち解けていった。


会話が弾んでいると、ふと恋人同士のように見えるのかなと周りの視線が気になる。


周りをみれば隣の女の子達も、いつの間にか斜め後ろに座っていた男の子達も、チラチラ誉さんを見ていて、優越感を感じる。


見なさい、これがあたしの彼氏(になる予定)なのよ!


と声高に叫びたくなった。


そして、30分ほど甘い語らいをしていた誉さんは突然、その細長い指をあたしの芋虫みたいな指に絡めてきた。





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