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警鐘
【その他 官能小説】

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警鐘-3

 カウンターに名簿を広げて、庭朋美がそこに懐中電灯の光をあてている。

「センゴク……センゴク……。変ですね。漢数字の千に、石ですよね。その方はチェックインされていませんよ」

 私の勘が当たった。偽名で予約を入れていたのだとしたら、彼はすでにここへ来ている可能性もある。
 私はもう一人の名前も出してみた。

「それじゃあ、夏目由美子という人は宿泊していますか?彼女は私の友人なんです」

「ナツメさんですか。……ええと、……ナツメユミコさんは、……はい。ありました。二名様でダブルのお部屋を取ってますね」

 聞いた瞬間、私の心臓が飛び跳ねた。

「うまく説明できないんですけど、とにかく私と一緒に二階へ来てもらえますか?」

 彼女に言って、私はふたたびあの部屋を目指した。
 夏目由美子たちが泊まっている部屋以外は、今はすべて空いているということだった。

「この部屋ですか?」と庭朋美は言った。
 私は頷き、彼女を先に促した。
 部屋の中の光景を知っている私は、それを目の当たりにした彼女がどんなリアクションをするのか大体予想がつく。

「どうしてこんなところにいるの?」

 そう言った彼女の声は、私が予想していたトーンとは違うものだった。
 見れば彼女は三毛猫のマサムネを抱きかかえていた。それに、女の子の姿がどこにもない。

「さっきまでここに裸にされた女の子がいたんです」

「三月さんのお友達の方ですか?」

「いいえ。夏目さんと一緒に来ていた、もう一人の女の子だと思います」

 言いながら事態が収拾できずにいた。彼女が自ら部屋を抜け出したのか、もしくは千石寛が連れ出したのか、どちらも有り得ることだと思った。
 部屋の様子が違っていたので、私は笑顔を取り繕った。

ちょっと待って。もしかしたら──。

 今までの色んな出来事を振り返ってみて、私は彼の正体に近づけそうなキーワードを思い出した。
 庭朋美がこんなことを口にしていた。集客アップを狙って『女子旅プラン』を練ったのは自分の主人だ、と。
 見境なく若い女性客を募っておいて、その中から自分好みのターゲットを絞り込み、あとはマスターキーで部屋に侵入すれば事は成し遂げられるというわけになる。オーナーの立場を利用すれば造作もない。

 さらに交流サイトでノブナガと名乗り、そこでも不特定多数の女性と接触して、自分の城に閉じ込めては甘い蜜を啜っていたに違いない。
 宿泊名簿に名前があるはずがない。なぜなら彼はいつもここにいたのだから。

 私はついに核心に辿り着いた。しかし彼の妻である庭朋美が真実を知ったら、彼女の人生はどうなってしまうのか。その痛みは計り知れないものになるだろう。
 私が口を開こうとしたとき、それよりも先に彼女が喋り出した。

「もしかしたら主人はあそこにいるのかもしれません。すみませんけど、私がいないあいだ、スタッフルームで休んでいてください」

 私は口をつぐんで頷いた。


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