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ヒプノ・フラッシュ
【SF その他小説】

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酔った女-1



戸をどんどん叩く音で目が醒めた。

もう夜はかなり遅くなっている。10時頃だ。

玄関に出てみると、少しお酒が入った20代半ばくらいの女性がいた。

「すみません。お酒の力を借りて勇気を出して来ました。

夜遅いのはわかってます。でも追い返さないで下さい」

私はパジャマを着替えて女性を中に入れた。

「いったいどういうことを治したいのですか?」

その女性は木ノ内宣子(きのうちのりこ)と名乗ったが、自分を指さした。

「もてないのです。 もう28になるけれど彼氏ができないし、結婚できない」

そ……それは催眠ではどうにも……という言葉が喉から出かかった。

催眠療法には夜尿症やバス酔い赤面症などが有効だが、なんにでも万能な訳ではない。

まるで催眠が魔術のように思われているのはショー催眠のせいだろう。

ましてもてないのは、催眠以前に心身医学の分野ですらない。

だが、そんなことを言っていたらお客は1人も来なくなる。

私はとにかく話を聞いた。

少し酔いが入っているので話しも長くなりがちだが、結構良い大学にも入っていて
良い仕事にもついている。

体は小柄だが、容姿容貌が劣る訳でもない。

しいて言えば服装や髪型に色気がない。

もうこの季節は十分暖かいのに首の下の部分も襟で隠れている。

だから顔が大きく見える。髪形も似合わないから頬骨が出て見える。

私は襟のファスナーを下げて鎖骨を見せてごらんと言った。

すると綺麗な鎖骨が出て来た。私はその鎖骨を褒めた。

鎖骨の下の胸の上部にホクロがあった。私はそのホクロも褒めた。

そして尖った顎も褒めた。その後、ヒプノ・フラッシュを光らせた。

「宣子さん、君は綺麗な鎖骨と素敵なホクロがある。それを異性に見せるような服装をすると良い。

髪形も綺麗な顎に注目するような髪形を研究すると良い。

君の体はとても魅力的だ。

だから自信を持って、それがより綺麗に見られるような姿勢や服装を研究すべきだ。

女は中身だというあなたの意見は間違ってはいないが、中身は外にも見えるように工夫すべきだ。

そうすればきっと今までよりも沢山の縁が舞い込んでくる。

今、君は花開く季節なのだから、花弁を閉じていないでアピールすべきだ。

おしゃれは頭のてっぺんから足の先まで工夫しよう。

そうすればきっと楽しくなって笑顔になれる。

その全体から花の香りが匂い立つように、ミツバチの男性が寄って来るに違いない。

花開く自分を演出するのだ。開花する前に枯れてしまわないように。

それはとっても楽しいことだ。素敵な自分を作って行く喜びがある」

これでもてるようになるかどうかは分からない。

分からないが、私としては精一杯彼女に暗示を言って、帰した。

そして今度こそぐっすり眠った。


 


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