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杉山梢の独り言
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2人の進路-2

ある日私は竹中を呼び出しました。

「いったいどうしたんだよ? 明日の最終進路の確認を控えてるんだろう?

俺は就職組だから、まだ十分間に合うけど、お前は進学するような話を他所から聞いたぞ」

それだから今日竹中に話があるんだ。

知り合いの牧場で酪農業の実習生を募集してるんだよ。

しかも将来の牧場経営者として育ってほしいということで奨学金を出して大学に通わせてくれるんだってさ。

農業大学は推薦枠が広いし、後継者としての証明さえ貰えば、竹中でも大学に入れるよ。

「お前、俺のために調べてくれたのか?」

そうじゃないよ。あんたが前に言ってたこと悪くないなって思って、自分の為に調べたんだよ。

「酷い奴だな。人の夢を勝手にパクリやがって」

まあまあ、それがさ。

そこの牧場には後継者がいなくて牧場を引き継ぐ意志があれば自分達は引退して譲る積りもあるんだって。

「おいおい、じゃあ、それを俺にやらせろ。お前は違う学校に行けば良いじゃないか」

そうしてやりたいのも山々だけど、残念ながらあんただけじゃ駄目なみたい。

私は知り合いだから信頼されてる。私が1枚絡んでいないと絶対駄目だと思う。

「じゃあ、お前とセットなら良いのか?」

ここで私は大きく息を吸った。これから言うことは1つの賭けになるからだ。

竹中、よく聞いて。後継者の証明を貰うには、私以外の人間が私とどういう関係にあるかを説明しなきゃいけないの。

それも口で説明して納得してもらうような曖昧な関係じゃ駄目なの。

親友とか、恋人とかでも駄目。

「そ……それじゃあ……」

つまり……たとえば夫婦として法的に証明されているとか……そういうことなの。

実際に私たちが夫婦として生活する必要はないけれど、実質の婚約者として婚姻届を出さなければ駄目なの。

意味が分かる? 

婚約者だから夫婦生活はしないけれど、その婚約が揺るぎないものであることを証明するために法律上結婚するということ。

だから、牧場は将来私と共同経営ということにして、実質運営して行っても良いけれど、戸籍上結婚したという事実は残るってこと。

実際に私と結婚するかどうか、その辺私は竹中を縛る積りはないよ。

私も縛られる積りはない。

お互いの履歴に結婚の記載は残るけど、その代わりに学費も出るし牧場も手に入る。

こんな良い話しはないと思うんだ。どうする? 

といっても真っ白な戸籍の肌に、消えることのない刺青を入れるようなものだから

それなりの覚悟はいるけどね。

竹中はじっと考えました。

「お前、もし俺がこの話しに乗らなかったらどうする積もりだ?」

そうだねえ、誰か別の男を捜してこの契約を結ぶしかないけれど、なかなかうまい具合に見つかるかどうか……。

すると竹中は意外にあっさりと言いました。

「良いぞ。 結婚しよう。俺は一向に構わないよ。実質夫婦になっても良いぞ」

私は顔が真っ赤になったと思います。

ば……馬鹿、何聞いていたの? 

そりゃあ、婚姻届は出すけどそれは間違いなく婚約者だという証明のためであって。

実はその婚約者というのも便宜上の……。

「お前こそ何言ってんだ。

便宜上も何も結婚すれば夫婦になるし子供だって生まれる方が自然だろうが」

じ……じゃあ、子供を作るのにあれもするの?

駄目駄目、学生として勉強しなきゃいけないし、子育てなんてできない。

まずそういうこともちょっと待ってよ。

私は竹中を警戒しました。いやに簡単に結婚しようと言ったからです。

そしてなんとか説得して、婚姻届は出すが2人の本当の関係は今まで通り友人としての分を守るということを約束させようとしました。

「それって、詐欺なんじゃないのか? もしかして。

だって嘘をついて牧場を乗っ取るんだろう。だから本当に夫婦になるしかないじゃないか」

駄目、駄目。たとえ本当になるにしても、今からじゃ早すぎる。

本当に大学できちんと勉強して牧場を経営することができるかとか。

そもそも酪農の辛い仕事に耐えることができるかどうかとか、そこに至るまでに沢山のハードルがある。

それにそんなに安易に結婚しようだなんて、まるで牧場を手に入れることが目的で結婚が手段になってしまう。

それじゃあ、駄目なの。私は彼を説得した。

「面倒くさいなぁ。要するに取りあえずは婚姻届を出した男女の友人同士ってことなら良いのか?」

私は頷いた。

その後の手続きは順調に行った。お互い未成年なので保護者の許可を貰った形で婚姻届を出したが、その中身はお互いの両親には言わなかった。

そして推薦枠を取って2人とも農業大学に入学できたのだ。

 


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