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It's
【ラブコメ 官能小説】

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☆☆☆☆☆-1

先生が言った通り、退院した後は日常生活を送るのも大変だった。
入院中あんなに寝たのに、今でも寝ても寝ても寝足りない。
動くとすぐに疲れてしまうのである。
掃除をした日は、午後には動けなくなっていた。
絶賛夏休み中の陽向は、毎日これでもかというくらい寝ていた。
焼肉屋のバイトの25歳の若店長には体調不良でしばらく休むと伝えてある。
10時。
目を開けると湊がいた。
「あ…湊……?」
夢か現実かは分からない。
湊が何か言っている。
陽向はまたウトウトと目を閉じた。

陽向が退院してから湊はほとんど毎日陽向の家に行った。
『具合どう?』
『今日掃除したんだけど、疲れた(*_*)』
メールも珍しくほぼ毎日している。
今日も湊はバイトまで陽向の家で過ごすつもりだ。
行く前にとりあえずメールをする。
が、いつまで経っても返事がない。
こりゃ寝てるに違いない。
ムダに広い2DKの家を後にし、2Kの陽向の家に行くと、やはり寝ていた。
ベッドの横に座り、幸せそうに眠る陽向を見る。
合鍵があってよかった。
無かったらこの幸せな睡眠を阻害してしまうから。
髪に触れ、親指でほっぺたを撫でる。
ゆっくり目が開く。
「あ…湊……?」
「おはよ。おじゃましてます。まだ寝てるか?」
その問いかけに陽向は、あーとかうーとか言いながら湊の小指を握って再び目を閉じた。
「ねむ…」
可愛い…。
赤ちゃんみたい。
眠い時の陽向の反応が愛くるしくて、いつもキュンとしてしまう。
湊はしばらく陽向の寝顔を見つめていた。

目が覚めたのは12時近くなってからだった。
起きると、やはり湊がいた。
「…おはよ」
「起きた?」
陽向はコクッと頷いてカーペットに座って雑誌を読む湊に寝ぼけ眼を向けた。
ケラケラ笑われる。
「なんで笑うの」
「寝癖すげーぞ。ほら、こっちおいで」
言われた通り湊の側に行くと、前から優しく抱き締められた。
香水のいい匂いがする。
「寝てる時のお前、好き」
「何いきなり」
「興奮してオカズにするとこだった」
「バカッ!」
湊の肩を思い切り叩く。
「ってーな!馬鹿力」
陽向はヒヒヒと笑って湊に抱きついた。
「…湊」
「なんですか」
「今日バイトなんでしょ?」
「そ。17時から」
「明日は?」
「バイト」
「そっか」
「なんだよ」
「…なんとなく」
「明日も来るから」
「ほんと?」
陽向は顔を輝かせて湊を見つめた。
「ほんと」
「ありがと」
湊はニコッと笑って陽向の唇にキスをした。
「大変じゃない?」
「全然大変じゃねーよ。チャリで10分もかかんねーんだから」
明日も来てくれるんだ…。
陽向はそう考えるとニヤニヤがおさまらなかった。

「じゃ、そろそろ行くわ」
16時半になり、湊は陽向にもう一度キスをして家を出た。
湊がいなくなってから15分程した時、携帯の着信音が部屋に鳴り響いた。
画面を見ると、大介だった。
「はーい」
『おう』
「どーしたの?」
『いや、入院してたって聞いたからさ。大丈夫なの?』
「全然へーき!もう元気!」
『よかった…。8月のライブは出れそーなの?』
「うん!早く練習しよーよ!」
久しぶりの練習だ。
陽向はワクワクしていた。
やりかけの曲がいっぱいある。
大介の新しいフレーズが早く聴きたい。
『来週の土曜日空いてる?』
「うーん。ちょっと待って」
陽向は手帳を取り出して予定を確認した。
来週の土曜日は特に何もない。
「空いてるよー」
『んじゃその日で。いつもんとこな』
「おっけー」
しばらく大介と話した後、通話を切る。
陽向は立ち上がり、5月からずっとしまってあったルーズリーフを取り出した。
実習に集中するために、棚の奥に封印していたのだ。
見たら絶対歌詞を書きたくなってしまうから。
書きかけの1枚が目にとまる。
タイトルはまだ、ない。
歌詞も3行しか書いていない。
でも、書きたい事は決まっている。
触れ合う度に救われて、気まぐれなワガママ言っても変わらない優しさ。
音楽が大好きな真っ直ぐな心。
ストレートに書くのは恥ずかしいし、比喩も苦手だから英詞にしよう。
陽向は1人でニヤニヤしながらシャーペンを手に取った。


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