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庭屋の憂鬱
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突然の事故-1

 一概に機械除草といっても家庭や農家で行う一般除草と道路除草とは天と地ほど異なる。先ず使用する草刈機が全く異なる。双方とも見た目には一見同じように見える草刈機を使用する。シャフトを挟んで片端にエンジン、もう一方の端に回転する円盤型の鋼刃やナイロン紐のカッターの付いたあの見慣れた草刈機の事だ。

 前者の一般機はそのほとんどが排気量二十ccから二十五cc、総重量四kg前後、それに対しプロが使用する草刈機は排気量が四十cc以上、重量ともなると七kgを軽く超える。一般機で軸が親指以上に太くなった雑草を朝から夕方まで連続して刈り続ければ一日でエンジンが焼きついてしまう。それ故プロは原付バイクに匹敵するような大型エンジン搭載の重い草刈機で朝から夕方まで何日も延々と刈り続ける。又、畑や田んぼで草を刈るのとは違い、道路は人も通れば車も走る。高速で回る回転刃が跳ね飛ばした石はいとも簡単に車のガラスを割ってしまうのである。人に当たれば大怪我をしかねない。石を飛ばさぬよう細心の注意を払い、更には体すれすれに通り過ぎる車を避けながら除草作業員達は草を刈っているのである。

 陸達のそんな作業が既に十日近く続いていた。案の定一週間で全ての作業が終えることは出来なかったが、作業終了の地点は直ぐそこに見えていた。三人共体はくたくたに疲れていたが今日でこの単調でつらい仕事から解放されるという喜びで気が緩んでいたのかもしれない。

 先頭で草を刈っていた陸を目掛けて一台の赤い小型車が突っ込んで来た。避けきれなかった。次の瞬間、陸の体は草刈機ごと遥か下の河原まで吹き飛ばされていた。何事が起こったのか陸には理解できなかった。ただ手と足が焼けるように熱くなったのを覚えている。

 意識を取り戻したのは病院のベッドの上であった。右足の膝から下がギブスで固く固定され、医療用のサスペンダーで天井から吊り下げられている。その上両手を包帯でぐるぐる巻きにされていた。幸いな事に被っていたヘルメットが頭だけは守ってくれたようである。そんな陸の姿を四人の姉達が心配そうに覗き込んでいた。



「陸、気がついたかい?」

 そういう椿姉の顔は涙でくしゃくしゃであった。

 桜はその時ヘナヘナと床に座り込んだ。

「陸をこんな目に合わせた奴はただじゃ置かないから」

 桔梗が心底怒っている。

「痛かったろう、陸。でももう大丈夫だからね」

 余程慌てて駆けつけてきたのだろう、紅葉のブラウスのボタンが掛け違いになっていた。

 日頃陸をおもちゃにしている姉達が今はわが子の身を案ずる母親の様である。

「竜さんや健は無事だったかい?」

「ああ、二人共無事だよ。すんでの所で避ける事が出来たって。陸の事が心配でずっと外で待っているよ。意識が戻ったって知ったらきっと喜ぶよ。呼ぼうか?」

 椿姉が二人を病室に招きいれた。

「陸さん、俺、もうだめかと思ったよ。手足だけで済んで良かった」

 余程心配したのであろう、竜のいつもの浅黒い顔から血の気が引いて青白く見える。

 健は今にも泣きそうな情けない顔である。

「俺がもっと早く気がついていれば親方をこんな目に合わせずに済んだのに。親方、済みませんでした」

「何言ってやがる、健のせいでもなんでもないさ。俺の不注意だ。あと少しで終わると思って気が緩んじまっていた。みんなに心配掛けちまって・・・誤るのはおれの方だ」

 そんな陸の言葉を聴いて健は本当に泣き出した。

「健ちゃん、大丈夫だよ。怪我したのは手と足だけ、他はなんとも無いってお医者さんが言っていた」

「本当ですか、良かった、本当に良かった」

 紅葉にそう言われて健はやっと泣き止んだ。

「竜さん、俺がこんなになっちまって申し訳ないが、現場の後始末頼めるかな?」

「現場の事は心配しないで下さい。もう残りは僅かだし、明日には寛太に現場引き渡しておきます。なーにも心配せず陸さんは養生して下さい」

「こんな俺が言ってもしょうがないけど、残りの仕事、くれぐれも事故の無いように頼む」

 痛み止めの薬が効いてきたようだ。陸は再び深い眠りに落ちた。


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