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あいかわらずなボクら
【青春 恋愛小説】

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VS欲望-12

郁美から出た“桃子”という言葉にザワッと背中の産毛が逆立ったような気がした。


「……あいつは関係ないだろ」


素っ気なく言ったつもりだが、まともに郁美の顔が見れずに、貧乏ゆすりが始まり、視線があちこち泳いだ。


多分郁美なら、俺が思いっきり動揺しているのをとっくに見抜いているだろう。


定まらない視線は、ファストフードのテナントで満面の笑みで接客する店員、隣のテーブルでドーナツをかじりつく三歳くらいの女の子、ラーメンを啜りながら携帯をいじる若い男などあちこち移動して、最終的には目の前に置かれた手付かずの牛丼に落ち着いた。


「あたしが何も気付いてないと思ってた? 今でこそ桃子の話なんてしなくなったけど、前は必ずっていいほどあの娘の話でバカみたいに笑って、楽しそうな顔して……そのたびあたしがどんな気持ちになっていたのかわかる?」


さっきまで呆れたように笑っていた郁美は、いつの間にか悲しそうに瞳を潤ませ、まっすぐ俺を見つめていた。


ぐうの音もでないとはこのことを言うのだろう。


石澤に恋愛感情なんて持っていないと反論しようと思って言葉が喉を出掛かるが、俺が何を言った所で郁美にとっては、“彼女の前で他の女の話で盛り上がる無神経男”なのは変わりがないのだ。


結局、俺は黙り込んで俯くことしかできなかった。


「……まさか自分のことまでわかんないほど鈍感だとはねぇ。ムカつく通り越して笑えてくる」


「……ごめん」


「認めちゃうんだ。嘘でもいいから“好きなのはお前だけだ”って言って欲しかったのに。……ホンット気が利かない」


「…………」


「でも、そんなとこもやっぱり好きなんだよねえ。無理してあたしのワガママにいろいろ付き合ってくれたし、たくさん楽しい思い出もくれたし、あたしは修ともう一度付き合えて、とっても幸せだった。修はそうじゃないかもしれないけど、あたしは本気で修のこと好きだったよ。ホントは別れたくないけど……、でももうこれ以上ワガママ言うのはやめる。

短い間だったけど、ホントにありがとう」


震える涙声に、視線を牛丼から郁美に移すと、彼女はボロボロ涙を流しながらも必死に口角をあげて笑顔を作っていた。




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