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『詠子の恋』
【スポーツ 官能小説】

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『詠子の恋』-15

「野球のこと、もっと教えてくれない?」
 ランチタイムの最中、詠子は吉川にそう切り出していた。同じ中身の弁当を広げている二人は、しかし、信じがたいことだが、まだ“彼氏彼女”の間柄ではない。
(吉川クンにアプローチをかけるなら、やっぱり野球のことしかない)
 そう考えた詠子は、吉川が今一番熱中しているその野球を、詳しく知りたいと思うようになっていた。
 ルールは大体把握した。だが、市営球場で試合を見ているときは、吉川の姿を追いかけるのに精一杯で、野球の面白さを理解しているとはいいがたいのも、事実だった。
「うーん。僕も、大学に入ってから始めたからね。やっぱり、試合をもっと見ることが、野球を知る一番の近道かなぁ。それも、テレビとかでなくて、生で見たほうがいいね」
 もっとも最近は、地上波で野球の中継をしなくなって久しいから、テレビで試合を観戦できることの方が、稀少になっている。
 しかし幸いなことに、野球が盛んな城央市は、その周辺も含めて、草野球チームだけでなく、硬式のクラブ・チームも多い。故に、城央市営球場は、週末だけでなく、平日にも試合が良く行われている。
「生で見る試合、か……」
 吉川の所属している“軟式野球部”は、週末にその試合を組まれているから、それ以外の試合を見ようとすれば、クラブ・チームのそれが一番いいかもしれない。
 そう考えた詠子は、城央市営球場に足を運び、イベント・スケジュールを直に確かめてみた。インターネットで調べたり、電話で聞くと言う方法もあったが、確実な情報を手に入れるには、やはり当地を訪れた方が一番いい。
「明後日、18時から、クラブ・チーム同士の試合があるのね」
 専用のイベント・パンフレットを刷られるほどに、有名なチームが対戦するらしい。詠子はどれぐらい有名なのかはわからなかったが、そのパンフレットを二枚頂戴して、球場を後にした。
 そして、翌日のランチタイムに、そのパンフレットを吉川に見せたのである。
「明日、市営球場でクラブ・チーム同士の試合があるみたい。行ってみない?」
「いいね。明日は練習もオフ日だし、見に行こうよ。それに、この対戦するクラブチームは、どっちも元プロの選手が立ち上げたところだから、ひょっとしたら試合にも出てくるかもしれないね」
「そうなんだ」
 野球のことで誘いを受けたことに、吉川はとても嬉しそうだった。ただ、元プロの立ち上げたクラブチーム同士の対戦を見られることに関心が寄っているようで、詠子と一緒に試合を見られることに対して、どう考えているのかまでは読み取れなかった。
(………)
 野球の試合を、一緒に見に行く。形は違えど、“デート”にも匹敵するシチュエーションである。
「須野原さん、どうしたの? 顔、赤いよ?」
 冷静になってみると詠子は、自分がしでかした大胆不敵な行動に、顔を赤く染めていた。そして吉川は、その理由にやはり気がつかないまま、詠子に対して、勘違いの心配をしていた。
 クラブ・チーム同士の試合がある日は、ゼミのない日だったから、待ち合わせが必要だった。


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