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レディー・キラー
【二次創作 官能小説】

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本文-2

 結局、ステージ衣装のアイディア出しはあまり進まなかった。もっとも、私が悪いんだけど。實松クンの学生時代の話を聞き出すのに夢中で、本来の目的を忘れてしまったのだ。
「僕の話ばっかり聞いてどうするんですか」
 その台詞はこれで10回目。ごめんなさいね。だって、楽しいんだもの。
「やっべ…、もうこんな時間だ。礼子さん、帰りは大丈夫ですか」
「あら、送ってくれるんじゃないの?車でしょ」
「そうですけど、僕は明日も早いし…参ったな」
「ダメよ。私のプロデューサーなんでしょ。最後まで面倒見てくれなきゃ」
 からかい半分に微笑むつもりが大笑いになってしまった。思ったよりアルコールが回ってるみたい。冗談じゃなくて、本当に實松クンに送ってもらわなきゃヤバいかも。
「あーもう。礼子さん。、ダメですよそんな大声で…。仕方ないな…。僕が家まで送ります」
 そうこなくっちゃ。それでこそ頼れるプロデューサーよ。

 ホテルの駐車場に止まっていた實松クンの車は、想像していたのより随分立派な車だった。大型の国産高級SUVで、後部座席の後ろのラゲッジスペースにアクリル製の衣装ケースが積んであるのが見える。
「プロデューサーの車って、てっきりちゃっちいのだと思ってたのに。これ、自前なの?」
「違いますよ、事務所のです。送迎用も兼ねてますから、これぐらいのが必要なんです」
 助手席のドアを開け、シートに乗り込もうと足がかりになるステップを探す。SUVの座席は地面より1mほど高いところにあるから、力を入れないと登りきれない。
「大丈夫ですか、乗れます?」
「失礼ね、そこまで酔ってないわよ、私」
 余裕のあるところを見せつけて一気に身体をシートに乗せようとするが、脚が滑ってしまった。なんという不覚。
「きゃっ」
 我ながら可愛らしすぎる悲鳴を上げて地面にずり落ち、あまりの痛さに目の前が暗くなった。車のボディにしたたかに打ち付けた膝が、ではない。お気に入りのハイヒールが折れてしまったのが。
「大丈夫ですか!」
 真っ青な顔した實松クンが運転席から飛んできた。心の底から心配してくれている彼の視線を見上げると、思わず涙がこぼれてしまう。
「どこ打ったんですか!まさか骨とか折れてませんよね…」
 ショックのあまり「違うの」と説明することさえできない。
「立てますか?病院に…。そうだ!とりあえず車に…」
 實松クンが私の肩を抱えて立ち上がらせると、有無を言わせずお姫様だっこの姿勢で抱き抱えて、そのまま助手席に乗せてくれた。信じられない。体育会系で体力があるのは知ってたけど、彼にこんな腕力があったなんて。
「シートベルト締めました?出しますよ」
 ブオン、とふかしてSUVが勢いよく発信した。張りつめた表情でハンドルを握る實松クンはの横顔が凛々しい。惚れちゃうかも、私。
「この時間で救急外来やってるのは…順天堂かな…」
 信号待ちの隙にナビを操作しようとする實松クンの指を取った。ショックで止まらなかった涙もようやく収まりつつある。
「大丈夫、病院行く程じゃないから…。泣いてたのは、これ」
 折れて外れたヒールを實松クンの面前で振ってみせた。これって、元通りに直せるものなのかしら。
「なんだ…。脅かさないでくださいよ、もう」
「別に、嘘泣きしてたわけじゃないのよ。あーもう、信じらんない!せっかく間中ちゃんがイタリアで買ってきてくれたってのに…」
「イタリアって、この間のツアーの?」
「そう。あの娘、ああ見えてすっごく気が利くんだから。旅行先で渡す相手にピッタリのお土産見つけてくる天才よ」
「それは、知りませんでした…」
「鈍感ね」
「すいません」
「謝らなくていいの。悪いのは私の不注意なんだから…。まったく!そんなに酔ってないと思ってたのに…」
「礼子さん、結構回ってましたよ。最後の方は少しロレツもおかしかったですし」
 私の怪我が大したことないと解ってホッとしたのか、そう言った實松クンの横顔は笑っていた。生意気ね。
「明日の撮影は12時からよね。プロデューサー?」
「ええ、僕はその手配で事務所に朝イチです。そのあと並木と佐久間を拾って、現場まで」
「本番前のカメラテストって聞いたけど」
「今回はちょっと、アート方面でも有名なカメラマンさんなんで、あちらのイメージも膨らませてから…。って、ちゃんと説明しましたよね、僕」
 実のところ、半分がた忘れてしまっている。なんていったっけ、女流カメラマンよね、確か。
 私がそのカメラマンの名前を思い出す前に、車が目的地に到着した。つまり、私が住んでいるマンションの目の前へ。
「着きましたよ。礼子さん、くれぐれも明日遅れないでくださいね」
「あら、玄関まででしょ。送るの」
 折れたヒールを掲げる。
「歩けないのよ。私」


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