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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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33 飛竜使いの資格-4


***

「……ナハトぉ……」

 空色の瞳を潤ませる『元・パートナー』が、ナハトは今でも大好きだ。
 せっかく可愛いのだから、たまには一緒におしゃれを楽しんでくれれば良いのに、と思う時もあったが、最高の竜騎士だった。
 彼女を背に乗せ飛んだ日々が誇らしい。

(……でも、仕方ないじゃない)

 あふれた涙が、ナハトの鼻先を伝っていく。
 ゼノに行ってからずっと、取り残される夢を見続けていた。
 小さい頃から繰り返し見る、ママがいなくなった時の悲しい夢だと思っていた。
 けれど、アレシュを出迎えた日、背中で泣いているカティヤを見て、ふいに気付いた。

 あのぬくもりは、ママでなくカティヤだった。

 ひたすら竜騎士でいる事を望み、ナハトだけに向いていたカティヤの心が、どんどん離れていくのを、無意識に感じていたのだ。
 それでもまだ、やり直せると思っていた。
 バンツァーの言った通り、日常に戻って忘れてしまえば……。
 ストシェーダの王子に惹かれたとしても、最後にはナハトを……竜騎士でいる事を選んでくれると思った。
 憧れの兜を手にしながら、カティヤが悲痛な瞳でアレシュを見つめるまでは。

「きるるるっ!きるるるる!!〔カティヤは、アレシュ王子を選んだんでしょ〕」

 仕方ないと思っても、やっぱり悔しくて、アレシュとカティヤを交互に睨んでやる。

「……すまない」

 ナハトの言いたいことが伝わったらしく、カティヤはアレシュの腕から飛び降り、長い首に抱きつく。
 すすり泣く声が、静かな厩舎に響いた。

「すまない……ナハト……私は……」

 たとえパートナーが病気や怪我を負い、背に乗ることができなくなろうと、心さえ飛竜使いでさえあれば、飛竜は決してパートナーを変えない。
 生きているかぎり……飛竜使いとして生きる限り、決して見捨てない。
 けれどカティヤは、ナハトより騎士団より、魔眼王子を求めた。
 あの瞬間、カティヤは飛竜使いの資格を失ったのだ。
 そしてナハトは、新たな相応しいパートナーを選ぶ権利がある。

「ナハトは目が高い。兄さんは、最高の飛竜使いだものな……」

 カティヤがそっと囁いた。

「きるっ!〔うん!〕」

 バンツァーを失った悲しみと怒りに目が眩み、大事な事を忘れるところだった。

(だって……あたしに家族をくれたのは、ベルンだもん……)

 毒霧と刃傷で弱っていたナハトを里に連れて行き、バンツァーと徹夜で看病してくれた。

『いきなり知らない場所に来て、不安だろうな』

 キャベツを細かく千切ってくれながら、優しく話しかけられたのを思い出す。

『でも大丈夫だ。バンツァーも他の飛竜も、今日から皆、お前の家族だから……』



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