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こいの毒
【青春 恋愛小説】

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こいの毒-2

これが私と彼、ゆう君との出会いだった。
それから私は本格的にドラムを始めようと、セットを購入した。ゆう君と近いうちにギターとドラムのセッションをしようと思って、いろんなアーティストの楽曲を練習した。ゆう君とも仲良くなれた。でもこの時はまだ、バンドを組むことに関して本気ではなかった。今思えば、たぶん私もゆう君も、場のノリに合わせていたんだと思う。そんなある日、席替えで私とゆう君は隣同士の席になった。そして以前よりも増して、さらに仲良くなり、毎日毎時間しゃべるようになっていった。そして、本当にバンドを組むことになった。もちろんお互い本気だった。毎日のように授業中も休み時間もしゃべりっぱなしだったため、周りから疑われることもあったけれど、ゆう君には彼女がいたし、私もただの“バンド仲間”という目線でゆう君と仲良くしていたから別に何とも思わなかった。というより、思わなかったフリをした。そう…この時すでに私はゆう君の優しさに惹かれ始めていたのだ。私はただの思い違いだと自分に言い聞かせたけれど、心だけは、そうすることを許してはくれなかった
。そして私は耐えられなくなり、友達の咲子に全てを打ち明けた。

「…実は、ちょっと気になる人できたんだ」
「えっ!?誰?あ…もしかして、ゆう君?」
「好きになっちゃいけない人だってちゃんと分かってる!!バンド内での恋愛は絶対にダメだって分かってる!!向こうには彼女もいる!!でも…無理なの。止まらない」

気持ちとは、たとえ小さくても誰かに話すたびに大きくなっていく卑怯なものだと心底思う。

この瞬間、私は咲子に全てを話したことによって自分の曖昧な気持ちを認めてしまったのだった。そして、この翌日から食欲がなくなってしまい、夜眠れなくなるほど深く悩み始めていった。寝不足せいで目の下には隈ができ、たったの二日で体重が1.5キロも落ちた。それでも、ゆう君への想いは日に日に大きくなるばかりだった。ゆう君としゃべるときは、絶対に気持ちがばれないように平気な顔して笑っていたけれど、心の中では必死に気持ちを押さえ込んでいた。その行動が裏目に出たのか、ゆう君がこう言った。

「最近元気ないな。どうしたん?」

私は咄嗟に笑顔で何でもない、大丈夫だと答えたけれど、たぶん顔は引きつっていたと思う。でも、どうしようもないのだ。積極的に行動することはおろか、気付かれることすらいけない。だからこれ以上優しくしないでとひたすら願うだけで、この恋は終わっていくのだろうと毎日のように思っていたのだった。
高校二年も終わりに近づき、バンドのメンバーも全員そろった。学年末のテストが終わってからスタジオで音合わせをしたりした。クラス替えは本当に嫌だったけれど、ゆう君と文化祭まではずっと一緒にいられる、そう思うだけで私は嬉しい気持ちでいっぱいだった。ゆう君の彼女は他校にいる。下手したらこれから先、彼女よりも私の方がゆう君のそばにいる時間が長くなるかもしれない。それだけでも私は十分満たされた。あるアーティストの楽曲にこんな歌詞がある。

“欲を言えばキリがないので望みは言わないけれど きっと今のあたしにはあなた以上はいないでしょう”



そして月日は流れ、文化祭の前日、私達は最後の音合わせをしていた。まるで本番のような緊張感の中で、私は魂をこめた演奏をした。自分のために、一緒に頑張ってきたメンバーのために、そして大好きなゆう君のために。もちろん、気持ちは隠したまま今日まで過ごしてきた。でも辛いことなんて全くなかった。いつの間にか体調も元通りになっていた。むしろ幸せだったのかもしれない。好き合っていないけれど、心は音楽を通して繋がっていることが…
その夜、ゆう君からメールが来た。

『希保へ
明日はとうとう文化祭だな。今まで何度かライブハウスで演奏してきたけど、最終的な目標は文化祭だもんな。だから明日は思いっきり楽しもうな!!いっぱい笑えよ?いつも笑ってるのがお前なんだからな。お前の今までで一番最高のドラムに期待してるよ。 ゆう』

私は涙を必死に堪えながら返事を返した。


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