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三叉路 〜three roads〜
【学園物 恋愛小説】

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報告-5

別れ話を報告してきた郁美は泣いてはいたけど、思ったより冷静に見えた。


もしかしたら郁美は、前から土橋くんと別れることを考えていたのかもしれない。


せっかく好きな人と付き合えているのに、自分から別れを告げなければいけないと言う心境は、恋愛経験のない私には到底理解のできないものだった。


「今から、あたしの代わりに修に会ってこれ返してきて」


郁美はそう言うと、白いコートのポケットから小さな水色の箱を取り出し、私に渡した。


高校生が持つにはちょっと高い、有名なブランドのロゴが箱の表面に印字されている。


私はそれを見て、今まで郁美が首に付けていたネックレスがこのブランドのものだということを初めて知った。


クリスマスプレゼントに土橋くんがくれたもので、その日から郁美は毎日肌身離さずそのネックレスをつけていると言っていた。


さっき、郁美がコートを脱いだときに感じた違和感は、これだったんだ。


郁美が大切にしていたネックレスが首につけられてなかったのだ。


箱を見つめながら、郁美が土橋くんと別れたのは冗談じゃなかったんだと思うと、なぜか背中に悪寒が走る。


郁美が私にのろけてきた時や、これ見よがしに土橋くんと手を繋いで、街を歩く姿を見かけた時、“早く別れたらいいのに”と思うことが何度もあった。


もしかして自分がそんなことを願ってたから、二人は別れちゃったんじゃないかという、罪悪感に襲われた。


だからといって、郁美の言うとおりにするには、私には荷が重すぎるし、そもそも私と土橋くんを口もきかない状態にさせたのは、ほかでもないこの郁美なのに。


それなのに、今さらそんな無理なことを頼む郁美に少し苛立ちも感じていた。


「無理だよ」


私はきっぱりと言って箱を脇に置いた。


思えば郁美の頼みごとはいつも一方的で、こちらの都合を全然考えていない。


これじゃまるで郁美のパシリじゃん。


郁美が今、傷心なのはわかる。


でも私がそこまでする道理はない。


私は、以前土橋くんと絶交してと頼んできた郁美の冷たい笑顔を思い出していた。


「あたし……桃子にひどいことしてたもんね……。桃子の気持ち知りながらわざとのろけたり、修と口きかなくさせたり……」


郁美の言葉に、声を失った。


やはりのろけ話をしにわざわざ家に来たのは、わざとだったんだ。


私は苦々しく下唇を思いっきり噛み締め、膝を抱える手にグッと力を込めて俯いた。


すると、膝を抱えていた私の手に、ふわりと柔らかい小さな手が添えられた。


驚いて顔をあげると、目の前に郁美がしゃがみ込んで、私の方に向き直っていた。





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