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It's
【ラブコメ 官能小説】

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☆☆-2

成人実習も終わり、残すは地域と在宅のみとなった。
4大に通う陽向たちは、保健師の資格も取得できるため、その資格を得るためにも地域実習の単位を取得しなければならない。
授業の度に、保健師なんてなるつもりないのに…と陽向は思っていた。
その気持ちが成績にも全面に出ていた。
「ちょっと陽向!地域成績やば!Cって!」
「見ないでよ!」
3年の後期に成績表が返された時、奈緒に成績表を盗み見され、爆笑された。
「保健師なんか興味ないもん!ならないからいーの」
「また陽向は開き直っちゃって。保健師の資格あるだけでも、看護師になった時給料違うんだよ?」
「国試受かればいーの」
「また城田に怒られるよ?」
「……」
それだけは避けたい。
と、思っていたが、やはり保健師には興味がわかない。
みんな興味ないくせに成績だけはいいから羨ましい。

そんな興味のない職業の実習は、毎日苦痛だった。
何故か遠く離れた市の市役所の福祉課に配属され、毎日地域住民のイベントに参加させられるのである。
季節はもう夏だ。
地域実習の2週目、今日もまた市役所からバスで30分もかかる場所にある公民館で、地域住民と一緒に転倒予防体操をするのだ。
炎天下の中、指導者とメンバーのみんなとバス停でバスを待つ。
突き刺す太陽の陽がが痛い。
「みんな水分だけはちゃんと摂ってね」
指導者の言葉にみんな返事をする。
「いつもバスで行ってるんですか?」
沢野が小さい声で指導者に問う。
「いつもは車だけど、人数多いから今日はバスなのよ。ごめんねぇ」
さすがにこの人数は乗せてくれないのか…。
「ケチだねぇ」
微かな声で呟いたひとみの横腹を小突くと、ニヤッと笑われた。
聞こえたらどーすんのよ!
ヒヤヒヤしながら到着したバスに乗り込む。
時計を見ると、9:45。
また今日が始まるのかと思うと憂鬱になる。
早く終わらないかな…そう思いながら、公民館までバスに揺られるのであった。

「今回の実習のまとめの発表会、土曜日だけど資料は進んでる?」
昼食の時間に久しぶりに顔を見せた先生の一言に、全員が青ざめた。
地域実習は、最後の土曜日に全員が集まりまとめの発表会があるのだ。
模造紙かパワーポイントを使わなければならないのだが、どちらで作るのかも話し合っていなかった。
実習に追われ、完全に忘れていた。
「あー…まぁまぁっす」
浩太が半笑いで答える。
「時間少なくて大変だと思うけど、みんなで協力して頑張ってね」
先生は「それじゃあ」と言って帰っていった。
一体何が忙しくてそんなに早く帰るのだろうか。
しかも、恐ろしい伝達事項だけ残して。
空気が一気に重くなる。
「今日、学校寄ってやってく?」
発表会は今週の土曜日だ。
焦りを感じた陽向がみんなに言う。
「えー!今日は無理!てか金曜じゃだめなの?」
ひとみが発狂する。
「一日で作るなんて無理だよ…」
「あたし、この中で一番家遠いから金曜だけ参加で」
みんなが反論できないと分かっていての発言だ。
ひとみは自分が一番だと思っていることは陽向は分かっている。
それを承知で今まで笑顔でやり過ごしてきたのだ。
「優菜ちゃん、来れる?」
「あたし…最近、あまり体調良くなくて。ごめん」
優菜は嫌なことから、なんやかんや理由をつけて逃げる癖がある。
前回の成人実習の時だってそうだった。
自分が病棟のスタッフに挨拶する順番が回ってくると、必ず体調が悪いと言ってカンファレンスルームに篭ってしまうのである。
そして、陽向が代わりに挨拶するというパターンになるのだった。
「俺は行けるよ。沢野は平気?」
「うん、私も大丈夫」
いつもわりと協力してくれるのはこの二人だ。
5月から始まった実習で、みんなとの絆は固くなった。
しかし、協力という面では底辺レベルだ。
仕方なく陽向がリーダーシップをとりみんなをまとめてきたが、みんな「陽向がやってくれるだろう」と心の中で思っていて、陽向に甘えているのだ。
陽向自身、それは分かっていた。
でも、あえて何も言わない。
言っても空気悪くなるだけだし…と思って黙っていたが、いつ限界が訪れるか分からない。
「…じゃあ、山ちゃんと絵美ちゃん実習終わったら学校行こっか」
陽向がそう言うと、ひとみは「よろしくー!」と言った。

「みんな非協力的だよな」
学校の図書館のパソコンの前でパワーポイントを作っていると、浩太が横で呟いた。
そういう彼は隣のパソコンで動画を見ている。
あんたもだよ!と言ってやりたくなる。
でも、来てくれただけマシだ。
沢野は陽向の隣に椅子を持ってきて、黙ってそこに座っているだけだった。
本当にやる気あるのか、こいつら…。
考えれば考えるほど、自分の性格が悪くなっていきそうな気がして、陽向は考えるのをやめた。
「できた?」
「できるわけないでしょ。まだ2枚目」
「だよねー!あ、構成どーしよっか?」
陽向はプリントを取り出し、一連の流れを伝えると「んじゃ、それで」と言われた。
ここはもっとこうした方がいいんじゃないか、とか意見が欲しかった。
「絵美ちゃんどう思う?」
「それでいいと思うよ」
聞かなきゃよかった…。
陽向は心の中で大きなため息をついて再びパソコンに向かった。
これは何の実習だ?
あたしの実習か?
あたしが一人でやって、一人で発表すればいいの?
本当に呆れる。
明日も実習だというのに、その日は22時まで図書館に篭りっきりだった。


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