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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第12話-8

(もういや、いやだっ、いたいっ、いたいのいやぁっ!)
 一刻も早く、この苦しみから逃げ出したい。
「がはっ、はぐっ、ひ、ひぐっ!」
「京子さん!」
「ひぐっ、ひっ、ぐふっ、がふっ!」
「しっかり、しっかりして!」
 京子の呼吸が、大きく乱れを見せ始めた。心が折れそうになって、呼吸のリズムと、息みのタイミングが、完全に狂ってしまった。
(くるしい、くるしいっ、しぬっ、しんじゃうっ、た、たすけてっ、だれか、たすけてぇっ!)
 たまらぬ苦しみに、京子が救いの声を挙げた。…その、瞬間だった。
『打ったー! これは、いったかー!!』
「!!」
 分娩室の一角に置かれていた、抗菌袋に包まれているラジオから、沸き起こった歓声が響いてきた。
 今日はデー・ゲームで、千葉ロッツと福岡ファルコンズの試合が行われている。京子の夫である千葉ロッツの主砲・管弦楽幸次郎は、その試合に出場しているのである。
 陣痛が始まって、分娩室に入るにあたって、産医のはからいで、試合を中継しているラジオを持ち込ませてもらったのだ。
『いった! 入った、入った!! 3番・管弦楽の、逆転スリーラン・ホームラーン!!!』
『素晴らしい。あの風で、よくあそこまでもって行きましたねぇ』
『逆風にも負けない、渾身の一打! 8回裏の千葉ロッツ、管弦楽の劇的な一打で、試合をひっくり返しました!!』
「こ、こうじろ……す、すごい……」
 京子は、ラジオから分娩室いっぱいに響き渡る歓声を生んだ、夫の放った一打を耳に聞きつけて、苦しみが一瞬遠のき、思わず笑みがこぼれた。
(そ、そうだ……こんなに凄い人の赤ちゃんを、あたいは、産むんだ……)
 京子を支配しかけていた負の感情が、瞬く間に洗われていく。
(あのひとが……幸次郎が、ずっと、楽しみにしていた……あたいとの、赤ちゃん……)
 京子は、自分の身体を引き裂くのかと思うような痛みに、耐えてみせる覚悟を取り戻した。
「はぁー、ふぅー、はぁー……」
 母体に息むことを強要するかのような激痛を、教わってきた呼吸でやり過ごす。
「ふっ、くっ、ふっ、くっ……はぁー、ふぅー、はぁー……」
「そう、そう、その調子、そのリズムよ」
 呼吸と律動を上手く合わせて、この世に生まれ出ることを焦る我が子に、ゆとりというものを教え与える。苦しみに耐えかねて、焦りを見せてしまった自分に、我が子を巻き込むわけにはいかない。
(だいじょうぶ……もう、負けない、から……)
 そうだ。自分は、母になるのだ。この苦痛が、母になるための通過儀礼であるというのなら、その全てを受け止めてみせなければならない。
 そうして、無事に、我が子の泣き声を、大きく響かせてみせる。夫の幸次郎が、球場を歓喜の声で包み込んだように、自分も、我が子に、世界中に響くような生命の賛歌を歌わせてみせる。
(あたいは……お母さんに、なるんだから……!)
 京子の全身に、聖なる力が宿った。それは、母親にならんとする女性だけが、持ちえるものだ。
「うっ、ふぅっ、うっ、ふぅっ……」
 その力に支えられながら、込み上げてくる命の激流を受け止めて、ゆっくり、ゆっくりと、その背中を押すように、生命を待ち受けている新しい世界へと、押し出していく。
 京子が、正常な精神と、呼吸を取り戻して、数分ほど…。
「あっ……」
 するり、と、自分の胎内から、勢いを得たように、下りてくるものを感じた。
「…生まれた! 生まれたわよ、京子さん!!」
「あ、あぁ……」

 おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!!

「ああぁ……」
 命が、生まれた。それを実感させる、高らかな響きが、耳の中に入ってきた。
「おめでとう、京子さん!」
「よくがんばったわね!!」
「まあ、なんて元気で、からだのおっきな子でしょう!」

 おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!!

「あらあら、すごい、泣き声! 病院中に、聞こえるんじゃないかしら!」
「は、はは……あはは……」
 安堵と歓喜がないまぜになって、京子はなぜか笑っていた。笑いながら、瞳の端から涙を零していた。
 母になったという実感と、愛おしい命が無事に生まれてきてくれた喜びが、京子の感情を様々な色で染め上げて、それが涙となって溢れ出していた。
「さあ、お母さん。抱いてあげて」
 処置を受けて、白い布にくるまれた、生まれたばかりの我が子が目の前に。
「とっても元気な、女の子よ」
「あ、ああ……」
 京子は、両手で大事にそれを受け取り、胸の中に押し抱く。

 きゃあっ、きゃあっ、きゃあっ!

「あら、泣き声がちょっと甘えんぼになったわ」
「お母さんに抱っこされたのが、わかるのよ、きっと」
 胸に抱く、我が子。これほど愛おしく、また、聖なる光と熱を帯びた存在を、京子は他に見たことがない。
 太陽。そう、まるで、太陽のように、自分にとってこの子は、生まれながらにして、なくてはならない、かけがえのない存在だ。
「ありがとう」
 京子が、我が子にかけた最初の言葉は、“感謝”だった。自分を選んで、生まれてきてくれた我が子に、尽きない気持ちが“感謝”だったのだ。
「ありがとう、ありがとう……」
 我が子に頬をよせ、溢れる涙を留めずに、何度も何度も優しく語りかける、聖母のごとき京子の姿であった…。



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