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女嫌いな俺
【コメディ その他小説】

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音楽室で-1

音楽室に行くと葦野がピアノの側に立っていて俺に気づいた。もう1人の見かけない女の子はピアノのところに座ってこっちをちらっと見た。なんかショートヘアのボーイッシュな感じの奴だった。少なくても腐った果物の匂いはしなさそうだ。それは俺にとって幸いだった。
「天野……私を振ったんだって? で、友達なら良いってかい?」
いきなり葦野がそう言ったんで、佐伯の奴が一応伝えたってことと、葦野が俺に気があったてことが同時にわかった。で、俺はできるだけ軽い乗りで行った。
「ああ、そうよ。俺ちょうど女の友達欲しかったんだよ。そこにうまい具合にお前が飛び込んで来たからラッキーってなもんだよ」
葦野桜は大きく頷くと、今度はピアノの前に座ってる女の子を指さして言った。
「だけどあんたと2人きりだと恋人同士のデイトみたいになるからさ。私の友達とセットで友達付き合いしても良い? で、この人どう? あんた、女にはうるさいからさ。一応断っておこうと思って」
俺は、もう一度その子を見た。俺と目を合わせると、そいつは片手を上げて軽い乗りで挨拶した。その素振りが気に入った。結構可愛い顔だが、変な女っぽさがなくてさっぱりした感じだ。
「おう、願ったり叶ったりだ。一遍に2人も女の友達ができれば、虫除けにもなるし情報も入ってくるし。OK。OK。どうだ、友達結成記念に3人で映画でも見に行くか?でもって帰りにハンバーガーでも食うってのはどうだ。もち、費用は自分持ちで」
その言葉に2人は飛び上がって喜んだ。腐った果物は自分持ちのお誘いには絶対乗って来ない。俺はなんだか楽しくなって来た。佐伯も転校して行ったことだし、これから俺の楽しい学園生活が始まるかもしれない。
「ところで、そっちのお前。ピアノの前に座ってるけど、なんか弾けるのか? ちょっとやってみせろよ」
そのショート・ヘアはにやりと笑うと得意そうに両手を大袈裟に上に上げるとこれから弾くぞって感じで構えた。
その後『猫踏んじゃった』なんかやってくれたら大受けになって最高なんだけどなって期待してしまったよ。
突然、そのおどけた前ふりから想像もつかないような名演奏が流れたとき、俺は腰を抜かしたね。こ……こいつ天才か? チェックのシャツにジーパンというラフな格好してて、悪戯っぽい雰囲気のこいつがクラシックの名曲を……って曲名は俺にもわからないけど、その指先から奏でるとは!
俺は震える思いで感動して聞いていたよ。終わったとき俺は手を叩いたね。
「すごいぜ! お前天才だよ。なんかこう……胸を打つ演奏だった。俺の知ってる奴もピアノが得意らしかったが、そいつよりもずっとうまかった。なんか心の奥に染みて来たものな、うん」
それをニコニコして聞いていたそいつは途中でなんか顔を歪めて顔を伏せてしまった。そしてしきりにシャツの袖で目を拭っている。
「おいおい、何で泣くんだ? 俺なんか嫌なこと言ったか? 本当の正直な感想だよ。お前は本当に才能があるよ」
葦野桜はそいつの肩に手を当てて俺の顔を見ながら言った。
「天野が褒めたから、嬉しくて泣いたんだよ。それと口惜しさも少し混ざってるかな?」
「はあ? く……口惜しさ? ど……どうしてだ?」
葦野桜はそいつの肩を揺すって言った。
「ほら、改めて自己紹介しなよ。気づいていないみたいだからさ」
「……き……み」
そいつは俯きながら消え入るような声で言った。俺は顔を近づけた。
「聞こえねえよ。大きい声でどうぞ!」
するとそいつは顔を上げた。俺との距離は10cmくらいだった。一瞬俺はどきっとした。そいつの目は涙に濡れていたが怒りも含んでいた。そして急に両手で俺の顔を挟んで、ゆっくり言った。
「さ…え…き…よ…し…み!」
「……」
ええっ?! 佐伯佳美? なぜ、なぜ。あいつがここにいるんだ?
よく……よく見ると、化粧もしてなかったからわからなかったが、顔は佐伯の顔だった。だが腐った果物の匂いがしない! どうしてだ?
佐伯佳美は、完全に今までのキャラを捨てて俺に言った。
「天野……友達から始めようぜ……もう取り消しはなしだからな」
佐伯佳美は俺の顔を両手で挟んだまま小さい子供に言い聞かせるように念を押した。俺はその手に揺さぶられてコックンコックンと頷くように顔を動かされた。
「証人は私がなる。天野、もう観念しな」
そう言ったのは横で笑っていた葦野桜だった。

俺はその後、木下も誘ったけど、木下は葦野と佐伯をちらっと見て俺に言った。
「3人で行って来い。良かったな、友達ができて。俺はしばらく人生の落とし物を捜さなきゃいけないから、しばらくはお前とは付き合えない」
そう言ってまた顔を伏せると図書館の資料室で近郊の学園の情報を調べていた。
その後、俺たち3人で映画を見たり、ハンバーガーを食べたりして楽しく帰って来たよ。
えっ? 佐伯とはどうなったって? あいつらの話しによると、佐伯は俺に言われた言葉が身に染みて、長い髪も切り、ファッションも変えて、すっかり本来の自分のキャラになったんだとよ。
そうした後、俺が佐伯を認めるかどうか賭けに出たそうだ。だから、そういう潔い奴を俺が嫌いなる訳ないだろう。
まあ、今回は騙されたが、女に騙されてやるのも、男の広い心だし、器の大きさなんだよ、うん。
あっ、じゃあ俺の話はこれで終わり。ばーい♪

   完
 


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