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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第11話-20

「あらためて、このたびは、おせわになりますのです」
「「「お世話になります」」」
 1時間後、本堂に集まった双葉大学の面々は、まずはきちんとした形で、目の前に座す僧衣姿の楓、隼人、響に頭を下げていた。隼人と響の二人も、本堂に姿を表したときは、正装というべき僧衣を身に纏っていたので、二人が既に得度した身であることがわかる。
 ただ、“真宗”は在家得度であるから、三人とも短いとは言え総髪であるのが、特長だった。楓は、サラリとした黒髪なので、短くとも女性らしい趣をしており、一方、響はかなりクセのある茶色の濃い髪質で、ある程度は梳かしてきたのだろうが、跳ねが所々に目立っていた。
「いやいや、本当に気になさらずに。ホテルとは違うので、いろいろ不便をかけるかもしれませんが、どうかご容赦ください」
「それにしても驚きました。あの平屋、確かに最新設備のオンパレードだったもんで」
 雄太が言うように、宿場になっている例の平屋は、オール電化となっていた。まさか、システムキッチンまで完備されているとは思わず、品子などは、目を輝かせてそれを眺めていたものだ。
「先代の御院が、戦国時代から続いているという、この“安広寺”を再興させたときに、本堂はもとより、居住環境を徹底的なぐらいに整備したのです。外観が古びているのは、全体の景観を損なわせないように、配慮しているからでもあります」
「へえ…。その、先代というのは……」
「私にとっては、夫にあたる人でした。……既に、鬼籍に入っておりますが」
「!」
「3年前の話になります。どうか、お気になさらず」
 そう言って、楓は微笑んで見せた。その表情はあくまで自然なものであり、全てを受け入れているといった、悟りの境地を感じさせるものがあった。
 楓の話を受け継いで、説明をするならば…。
 この“安広寺”は、楓の言うように、戦国時代には“一向一揆”の拠点にもなった由緒のある寺院ではあったのだが、ある時を境に、御院(真宗で言うところの、“住職”のこと)の不在時期が長く続くようになり、管理のなされていない状態のまま、荒れるにまかせていた。
 だれもが御院の成り手になろうとしない中、“安広寺”の深い由緒を知ったとある歴史研究家が、一念発起して御院となるべく僧籍を獲得し、この“安広寺”に赴任するや、今風に言うならば“リフォーム”を行って、寺院としての再興を果たしたのである。
 最初は、“裕福な学者の単なる道楽”と見て、冷ややかにその活動を眺めていた旧・檀家の人間たちも、その視線に堪える様子もなく胸襟を開いてくる人間性にいつしか心惹かれるようになり、報恩講を通じて交流を深め、“安広寺”を地域の象徴として敬おう気持ちが強くなっていった。
 御院となった研究家が、未だに独身であることを心配したとある檀家の人間が、その縁談相手として彼に薦めたのが、楓であった。研究家は、すでに四十も半ばの身であったこともあり、歳が随分と離れていることに始めこそは遠慮をしていたのだが、楓の身の上を知るに当たって、彼女を自分の妻に迎えることを決めた。
 ちなみに、楓と響は姉妹である。だが、母親が違っている。姉妹の父親は、やはり僧籍を持つ人間であり、御院としてかなり大きな持ち寺を運営していたのだが、身持ちが相当に悪く、楓の母親はそれに疲れ果て、娘を連れて彼のもとから立ち去った。
 すぐに後妻として迎えた女性が、響の母親になるのだが、彼女は、夫の不行状に心を病んでしまい、程なく病気で亡くなってしまった。以来、響は父親に見向きもされなくなってしまい、いわゆる“ネグレクト(育児放棄)”を受ける形になってしまったのだが、そんな響の窮状を聞きつけ、手元に引き取ったのが、楓の母親であった。


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