投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

魔眼王子と飛竜の姫騎士の最初へ 魔眼王子と飛竜の姫騎士 38 魔眼王子と飛竜の姫騎士 40 魔眼王子と飛竜の姫騎士の最後へ

13 十七年の重み-2

 静かな音をたて、扉がしまる。
 ランプも壊れ、刻まれた呪文の光も消えた今、扉が閉まると完全な闇にカティヤと取り残された。
 あわてて魔法灯火をつけるが、疲弊しきっているため、互いの姿がやっと見えるくらいの小さな灯りだった。
 カティヤは黙ったままだったし、二人で石床に座り込んだまま、しばらく重苦しい沈黙が過ぎた。

「……全部、思い出したわけではないのです」

 ややあって、カティヤがポツリと呟いた。

「アレシュさまと初めて会った日と……それから、一緒にいた間の事を、切れ切れに思い出しただけで……」

「それだけで十分だ」

 慰めでなく、心からそう思う。
 なんと言っても、当時のカティヤは三歳だ。
 事情はとても複雑だったし、アレシュ自身ですら、全てを理解したのは成人してからだった。
 さらに、カティヤと引き離された本当の原因が判明したのは、つい数日前だ。

「カティヤ……」

 寝巻き姿で髪も降ろしているせいか、目の前のカティヤは昔のままに見えた。
 気丈な女騎士の勢いは影をひそめ、不安を抱えた幼子のようにアレシュを見上げている。
 何度も言葉を飲み込み、迷った末に、ようやく深いため息を吐き出した。

「賭けはとり止めだ」

「……え?」

「カティヤ・ドラバーグ竜騎士副団長殿、わたしの軽率な行動により何日も拘束し、大変申し訳ないことをした。いずれ正式な謝罪と賠償をさせていただく」

「ア、アレシュさま?どうして突然……」

 完全に混乱しきったカティヤに、無理やり気楽な声音で笑いかけた。

「引き止めたら、ずっと居てくれるのか?ナハトもベルンも義理の親も、何もかも捨てて、俺を選んでくれる?」

 ビクン、とカティヤの顔が強張る。

「っ……」

 唇をかみ締め、両手が寝巻きの裾をきつく握っていた。
 困惑しきった空色の瞳に、また薄っすら涙が盛り上がっている。

「竜騎士はジェラッドの主戦力だ。一時滞在ならともかく、飛竜使いとしてストシェーダに住む事は許されないだろう」

「あ……っ、アレシュ王子……わたしは……っ……」

「こんな簡単な事、もっと早く気付くべきだったのに……さっきカティヤの顔を見て、やっと理解できた」

 抱き締めたら、離したくない誘惑に負けそうだったから、かわりに俯いてしまったプラチナブロンドの髪を、そっと撫でた。

「愛してる。だから……カティヤの大事なものを奪って悲しませたくない」

 引き離された後、カティヤは盗賊に襲われ殺されたと聞いても、諦めきれなかった。
 だが、襲撃されたというゼノ地方をいくら探させても遺体は発見できず、離れていても場所が判るようにも持たせたペンダントの反応も消えた。

 青年期を迎え、いいかげん忘れろと、兄から勧められた寵姫を何人かもった。
 その中には、それなりに好意をもった相手もいた。
 けれど、ある日気付いた。
 アレシュが選ぶのはいつも、プラチナブロンドの髪に空色の瞳をした小柄な女で……カティヤの代用品を求めていただけだった。
 幸か不幸か子どもも出来なかったし、寵姫たちには風習通り、持参金をもたせてそれぞれ希望に沿う家へと嫁がせた。

 その数ヵ月後。
 追跡ペンダントの反応を感じた時は、夢かと思った。
 場所は遠いガルチーニ山脈。ストシェーダ王都から、ゼノと間逆の方向なのに、疑う余裕もなかった。
 川原で飛竜の傍らに立つ女騎士を一目見て確信した。
 本物のカティヤ。
 ひ弱で泣き虫だった面影はどこにも無いけれど、彼女に間違いなかった。
 だが、浮かれ気分は即座に叩き潰された。

 カティヤはまるで憶えていない。アレシュは忘れたくても忘れられなかったのに。

 心が荒みそうになっても、魔眼の暴走で苦しんでも、カティヤを思い出して耐えた。
 鏡を見れば、そこには人の姿を取り戻した自分が写り……ストシェーダの王子として生き抜く事が、カティヤの居た証だと自分へ言い聞かせていたのに。

 怒りにまかせて無理やり連れ帰ったが、数日をすごすうち、竜姫に成長したカティヤへ、更に惹かれていった。
 そして同時に思い知った。

 もう彼女は、アレシュだけの腕に抱ける存在ではない。




魔眼王子と飛竜の姫騎士の最初へ 魔眼王子と飛竜の姫騎士 38 魔眼王子と飛竜の姫騎士 40 魔眼王子と飛竜の姫騎士の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前