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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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13 十七年の重み-1

 アレシュは呆然と、カティヤを見つめた。
 魔眼暴走が始まると、何もわからなくなり、全身が焼け付くような苦痛がひたすら続く。 
 無意識に周囲を高温で焼き尽くしてしまうから、予兆を感じたらすぐさま部屋に飛び込み、エリアスにガードさせて、やりすごしていた。
 目も耳も効かない中、いつもカティヤの幻影や幻聴だけがちらついて、耐え難い苦痛を救ってくれた。
 今日も、いつもと同じ幻影だと思い、手を伸ばして抱き寄せたはずだった……。

「カティヤ……どうして……」

 本物のカティヤが、腕の中にいる。
 ボロボロ流れる涙で頬を濡らし「おうじさま」とアレシュを呼んだ。
 昔と同じ呼び方で。

「あ……エリアスさまに、入るよう言われ……それで……」

 我に返ったカティヤが涙を拭い、しどろもどろに話す。

「エリアスに!?」

「見ていてイイ加減、まだるっこしかったものですから」

 悠然と入室したエリアスが、呆然と固まっているアレシュとカティヤに微笑みかけた。

「良いではありませんか。カティヤさまはこれで何もかも思い出した。約束どおり、これからずっとアレシュさまのお傍にいてくれるのです」

「あ……」

 ピクリ、とカティヤの表情にわずかな動揺が走ったのを、アレシュは見逃さなかった。
 エリアスもそれにチラリと視線を走らせたようだが、平然と続ける。

「ともかくこれで、わたくしもお役御免になりますね。まぁ、他の業務もございますが、誰かに引き継いでも済みますし、この場でクビにしてくださって結構です」

「エ、エリアスさま?」

 事情に疎いカティヤが、うろたえた声をあげた。エリアスの唇が義務的めいた笑みを形作る。

「カティヤさま。わたくしは貴女が行方不明になった……公は死亡という報告でしたが、貴女が不在の間、アレシュさまの魔眼を押さえる役目に派遣されただけなのです」

 つまらない書類を淡々と読み上げるように、何の感慨もなく言葉を紡ぐ側近に、アレシュは少なからずショックを受けた。

エリアスのいう事は本当だ。
 カティヤが過剰な魔力を吸い取ってくれ、出会って数日でアレシュの身体から黒鱗は消えた。
 その後もカティヤが居れば、魔眼暴走が本格的に始まる前に治まっていた。
 いなくなった後も、昔のように正気を失ったままではなく、一定時間の苦しみを過ぎれば収まるようになったが、周囲に伝わる熱を抑える役や、万一の追加結界を張るために、高位魔法使いが何人も必要だった。
 危険な仕事ゆえ、当然ながら誰しも尻込みし、嫌々やっていた。

 そんな数年後、エリアスが突然、訪れてきたのだ。
 結界張りはもとより、各種魔法に優れた青年は、アレシュの補佐をするのと引き換えに、自分の使える主の為に、この国で『知識』を集めるのを黙認してくれと条件づけた。
 王家に伝わる門外不出の魔法書はもとより、新たに開発される魔法技術、闇世界で造られる禁呪……それらを時に非合法な手段を使ってでも集めたいと言う。
 身元もはっきり言わない。調べでもわからない。
 胡散臭い事このうえない青年だった。
 アレシュの兄姉は最初反対したが、エリアスの腕は確かだったうえ、今までの着任者たちがこぞって嘆願書を出したので、渋々認めたのだ。

 膝をついたまま、言葉を失うアレシュを見おろし、エリアスは焦げ茶のローブを脱いで放る。

「アレシュさま、少々申し上げにくいのですが、服を着なさった方が宜しいでしょう」

「!!」

 黒鱗がとれ、素裸だった事をやっと思い出した。
 アレシュは急いでローブを羽織る。カティヤも赤面して横を向いた。
 くすくす笑いながら、エリアスは扉に向う。

「積もる話もございましょうし、邪魔者は退散します。わたくしの処分は、明日にでもお決めくださいませ」

「エリアス……」

 見慣れた細身の背中に向けて、アレシュは唸った。

 来てから十数年。
 エリアスは来た時とまるで変わらない青年のまま、アレシュの補佐をそつなくこなし続けた。
 相変わらず、自分の事は全く語らないし、基本的に子ども扱いしてくる。
 完全な信頼はされていないとも、感じていた。
 それでも……共に積み上げてきたものがあると思っていた。
 魔眼暴走が治まったとしても、それでエリアスの価値がなくなるなど、アレシュは欠片も思っていない。
 潔いエリアスらしいと言えばそうだが、こんな風に辞職をけし掛けるなんて、あんまりだ。

「そう簡単に辞められると思うな!うちの城は人手が足りないんだ!」

 怒りを込めて怒鳴ると、振り返ったエリアスは、いつものつかみ所のない笑みを浮べていた。

「左様でございますか」

「それに……魔眼を封じるのに、またお前の力が必要にならないとも、限らない」

 出来れば避けたい未来の予想を渋々口にすると、冷酷だった紺碧の瞳が、少しだけ和らいだ。

「かしこまりました。では、お休みなさいませ」



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