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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第6話-3

ベッドに手を付いて、彼女に迫ると、ぎしりとベッドの軋む音が響く。
サイドテーブルの上に置いてあるスタンドライトが、彼の影を白い壁に大きく映し出す。
実際には2人の間にまだ距離はあるが、黒い影の部分を見ると、既に英里は圭輔に覆い被さられているように見える。
英里はベッドに両肘をついて、完全に押し倒される寸前の体勢だ。
彼は微笑んでいるが、瞳の奥に宿る光は、既に滾る熱を持っているようだった。
この視線は躱せない。英里は、逸らす事なく、その視線を受け止める。
圭輔は自分自身に余裕がない時以外は、本気で求めると彼女が怖がると思って、よくこんなおどけた誘い方をする。
いつでも自分を気遣ってくれる彼の優しさが英里には嬉しかったが、もう年齢的にも歴とした大人なのだ。
お互い、どこか奥手で初なところがあるため、未だに体を重ねた回数は恐らく両方の手の指で収まるか少し超えるか程度だが、いつまで経っても未通女のようにかまととぶっているのも白々しい。
本当は、心のどこかで、彼女自身も彼に抱かれる事を望んでいるのだから。
…英里は、高鳴る鼓動を抑えながら、ゆっくりと首を縦に振った。
「わかるけど、言って欲しい…かな」
目元をほんのり赤く染めて、伏し目がちにそう告げる。
そう言葉を紡ぐ、彼女のふっくらとした唇の紅が白い面に映えて、圭輔の目に色っぽく映る。
もう、紳士ぶった態度や理性などという縛りを、即座にかなぐり捨ててしまいたくなるような、扇情的な仕種だ。
「抱きたい。今すぐ、英里が欲しい」
圭輔の顔にもう先程までの微笑は消え失せ、瞳は真剣そのものだった。
残るのは、狂おしい程までに求めている彼女への溢れんばかりの思い。
当然、英里にその熱情を拒む理由などない。再度頷くと、完全にベッドの上に押し倒された。
ふんわりとした柔らかすぎる枕に、頭が沈み込みそうになる。
圭輔はそのまま顔を寄せ、彼女の唇に口付けた。
英里もそれを心地良く受け止めて、軽く目を瞑ろうとすると、
「あ、そういえばまだお風呂入ってない…」
ふと、思い出したようにそんな事を言い出す。
「後でいいだろ、そんなの」
もう完全にスイッチが切り替わった後の圭輔にすれば、出端を挫かれた形となり、少し拗ねたような顔で、口付けを続けようとすると、
「だ、だって、今日結構汗かいたし…!」
英里は必死に彼の広い胸を押し返す。
「どうせこれからまた汗かくんだし…」
圭輔は抵抗する英里を軽く往なして、首筋に唇を寄せて口付けると、確かに汗を帯びた彼女の肌の味がした。
また変態扱いされかねないので、口には出さなかったが、彼女の匂いを落とさずにそのまま感じたいという思いも無きにしも非ずだ。
「嫌だ!お願いだから、軽くシャワーだけでも浴びさせて下さい!!」
「わかった!わかったよ」
彼女にしては珍しく、耳元で大声で騒ぐので、圭輔は渋々と承諾し、億劫そうに身を起こした。
「あの、圭輔さんから、先にお願いできますか?」
やはり天然なせいなのか、懇願するように、上目遣いで見上げてくる。
彼にしてみれば、こんな仕種をされると、わかっていて焦らしているとしか思えない。
勿論、英里は無意識のうちに取っている行動だ。無意識だからこそ、残酷な仕打ちをしていることに気付いていない分、彼はより一層哀れなのだった。
「ハイハイ」
彼女は本当にタイミングが悪い。
こういう事は、そそられるような顔であんな台詞を言う前にして欲しい…。
もう自棄とでも言わんばかりに、遣る瀬無さを持て余しながら、圭輔は浴室へと向かった。
彼の姿が見えなくなってから、英里はベッドから立ち上がると、すっかり手から離れてベッドの上に転がっているイルカのぬいぐるみを取り上げて、サイドテーブルの上に置く。
それから、自分のカバンの中からとある物を取り出した。
ぎゅっと、隠すようにタオルなどと一緒に袋の中に詰め込む。
もう一度ベッドの縁に腰掛けて、サイドテーブルの上にいる物言わぬ無垢な瞳を見つめながら、英里は早くなる鼓動を鎮めようと、そっとその柔らかい頭を撫でる。
「…英里、次、どうぞ」
しばらくすると、湯気と共に浴室の扉が開き、少し無愛想な顔付きの圭輔が出てきた。
頭の上にタオルを被り、上半身は裸に下着姿のままという出で立ちだ。
まだ水気を含んだ髪から時折滴り落ちる水滴が、彼の体に滑り落ち、濡らしてゆく。
水も滴る良い男とは、よく言ったものだ。
細身だが、決して華奢ではない。無駄な贅肉がない彼の引き締まった体。
無造作に頭をタオルでごしごしと拭いている圭輔の姿を、つい英里はまじまじと見つめてしまった。
「…えっち」
視線を感じたのか、顔だけ振り向いて圭輔はそう冗談っぽく言ったつもりだったが、
「ご、ごめんなさい…!」
英里はそれを真に受けて慌てて視線を反らし、さっきまとめた荷物を持って逃げ込むように浴室へと急ぐ。そして、いざドアを閉めようとする直前、
「あのさ、前みたいに20分以上も待たされたら、我慢できなくて襲いに行っちゃうかもな」
などと彼から釘を刺され、
「5分か…10分以内には出ますから」
とだけ何とか告げると、英里は浴室内に引っ込んだ。


髪が濡れてしまうと乾かすのにとても時間が掛かってしまう。
後でまた入り直せばいい、とりあえず今はさっさと汗だけでも流してしまおうと、英里は簡単に髪をまとめた。
コックを捻ると、先に彼がシャワーを使っていたせいか、すぐに程良い温度のお湯が彼女の体に降り注ぐ。
それから2・3分程浴びていただろうか。シャワーを止めて、素早く体の水滴を拭う。
こういう事は長く時間を掛けて悩みすぎると、逆に決心が鈍るものだ。
そう思いながらも、それを手にしたままで彼女の体は石像になったかのように一向に動かない。


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