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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第6話-28

英里は、自身の胸の膨らみから手を離して、彼の厚い胸板に手を置いた。蒸し暑い部屋の中で、彼の素肌はじわりと汗をかいていて、英里の手にしっとりと馴染む。
がっしりとした男らしい骨格を、適度に筋肉のついたしなやかな体つきの感触を確かめるかのように、緩慢な動作で、肌を手の平で摩る。いつも、彼が彼女にするように、感じるポイントを探りながら、愛撫を加えていく。
彼の肌に触れているうちに、より感情が昂ぶったのか、英里はもどかしげにシャツのボタンを外し、自分が身に着けていた服を取り払った。
暗闇の中に、彼女の仄白い裸体が浮かび上がった。
長い黒髪が、肌理の細かい滑らかな肢体に絡みつき、まるで彫像のように艶麗で、下から見上げていた圭輔は思わず声を失った。
上半身裸になった英里は前屈みになって圭輔の体に寄り掛かると、柔らかい膨らみが、彼の胸板に押し潰されて歪に形を変える。腰から尻にかけてのラインが、女性らしい丸みを帯びていて艶かしくも美しい。
圭輔は唾液を呑み込み、触れたくなる衝動を必死に堪えた。
そんな圭輔の思いも知らず、英里は感情を見せないまま、本能の赴くままに動いた。
膝立ちになり腰を浮かせて、下着の中に手を差し込むと、そこは既にねっとりとした湿り気を帯びていた。ぐちゅぐちゅと指先で掻き混ぜるように愛液を絡めて、敏感な突起に触れた。優しく触れただけで、腰が跳ねてしまいそうな快感が、背筋を走る。
「あっ…あぁっ……ん」
圭輔の耳元で彼女が熱い吐息を漏らす度に、彼の興奮の度合いも高まっていく。彼女の自慰を見せられているようで、体の芯が熱くなった。
英里の頭の中は、真っ白だった。自分が何をしているのか、もう判断がつかなくなる程、何かを渇望していた。
時折、圭輔に口付けながらも、拙い指使いで自身の敏感な部分をまさぐり、ついに軽く絶頂を迎えた。びくんと、小さく身を震わせた後、体を支えていた腕の力が抜けて、圭輔の上に倒れこんだ。
荒い息遣いに合わせて、触れた胸が上下する。それを愛しく感じながら、自分に全体重を預けてきた彼女の背中に、圭輔は腕を回した。
汗ばんだ素肌がより密着し、英里は心地良さそうに睫毛を伏せた。
(あったかいな…)
彼の熱に触れながら、ぼんやりと、先程と同じ事を思った。
最初よりも、圭輔の体は熱く、心臓の鼓動は早かった。
誰かの温もりに触れるのは、どうしてこんなに心地良く、安らげるのだろう。
安堵したと同時に、何故か英里の瞳にじわじわと涙が込み上げてきた。
圭輔の胸の上で顔を伏せていた英里の、零れ落ちたその一滴が、彼の素肌を濡らした。
「英里…?」
圭輔は心配そうに名前を呼ぶと、英里はそっと顔を上げた。すっかり両目に涙を溜めた彼女の顔がそこにはあった。
彼の力強い腕に守られるように抱き締められた瞬間、英里はようやく自覚した。
本当は、強がってみても誰かに助けて欲しくてたまらなかった。淋しさを埋めて欲しくてたまらなかった。自分の弱さを素直に出せず、涙も流せずに苦しんでいた。
嗚咽を漏らしながらぼろぼろと涙を流す、英里の頭を優しく撫でながら、落ち着くまで圭輔はただ黙っていた。
「…両親が、海外旅行に行ってるなんて、嘘なんです。本当は、家出してて…騙してごめんなさい」
一頻り泣いて、少し落ち着いてきた英里は涙を指で拭うと、ぽつりと、そう呟いた。
「何で、家出なんか…?」
「圭輔さんと旅行に行く少し前に、両親が離婚するって話を聞かされて、どうしようか1人になって考えてみようと思って…もう1人で何でもできる年齢なのに、こんな事で悩んでるなんて、子どもっぽいでしょう?だから、恥ずかしくて言えなかったんです」
元々、大して仲が良いわけではなかった両親が離婚をする。自分は関係ない、何も傷付くはずなんてなかったのに。
「でも、本当は離婚なんてして欲しくない…。私なんて、いらないんだって思うと、悲しくて…」
そこまで言って感極まったのか、英里はまた目の淵から大粒の涙を零して咽び泣いた。
言い訳をして自分をどれだけ納得させようとしても、結局はこれが本音だった。自分の気持ちまで嘘で塗り潰そうとしていたが、できなかった。
両親にとって自分は必要のない存在なら、こっちだって両親なんて必要ない。割り切ったようにそう言い聞かせていたが、本当はほんの少しでもいい、大切な娘だと、両親から言葉や行動で示してもらいたかった。
圭輔は、英里の体を一層強く抱き締めた。彼女が涙を流している間、ずっと。溜め込んでいた感情を全て吐き出すかのように、しばらく涙に暮れていた英里がようやく落ち着いてくると、
「…恥ずかしくなんてない。淋しいのは、当たり前だろ?俺だって、もし家族が離れ離れになるなら、この年でもたぶん淋しいと思うけど。それに、子どもが可愛くない親なんてきっといないよ」
ありきたりな言葉でしか伝えられないが、圭輔は思ったままを英里に告げた。
高校の担任を受け持つようになって、三者面談などで生徒の保護者と会う機会が増えたが、親子の接し方は各家庭によって様々だ。
英里の行動にある程度干渉してくるのも、きっと娘が大切で、心配に思う心からの行動だろう。それを、伝えるのが少し不器用なだけで、単なる愛情表現の違いに過ぎない。
思いがけない圭輔の言葉に、英里は顔を上げて、彼を見つめた。
涙に濡れた瞳が、弱々しく圭輔を見つめていた。
「ずっと、我慢してたんだよな。何も、気付いてやれなくてごめん。子どもっぽいなんて全然思わないから、俺には全部打ち明けて欲しい」
「…圭輔さん…」
「英里の問題だから、俺が立ち入れる事じゃないけど……辛い時は傍にいるよ」
圭輔は優しい眼差しで見つめながら、英里の頭をそっと撫でた。
それに甘えるかのように、英里はまた、彼の広い胸板の上に顔を埋めた。


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