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インスタント・ラバーズ
【痴漢/痴女 官能小説】

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グッド・モーニング-3

「……触ったでしょう?」
「え…………ええ!? そんな、僕は何も――」
「ちょっと、あまり騒がないで」

 わたしは今にも騒ぎ出しそうな男性をたしなめるように、小声で言った。
 ようやく男性は、わたしの意を察したようだ。
 彼は、わたしから痴漢行為の疑いをかけられていることを理解したのだ。
 騒いで事を荒立てても仕方がないと男性も考えたのか、顔を青くしたまま黙り込んでいる。
 でも、僕は、何もやってない。無言で男性がそう叫んでいるかのように見えた。
 痴漢の冤罪をかけられて、人生を棒に振った男も少なくないと聞いたことがある。
 今、まさにこの男性も、暗澹たる自分の今後について考えこんでしまっているのだろうか。
 わたしを恨んでくれてよかった。わたしを憎んでくれてもよかった。
 そういう負の感情を、エネルギーにして欲しいと思った。
 わたしは、恋だとか愛だとか、そういう感情は不要の女なのだ。

「次の駅で、降りましょう? いくつか話したいことがありますから」
「僕は、本当に何もしていないんですよ」

 わたしは、それには何も言い返さず、冷たい態度をとり続けた。
 彼が逃げ出さないように、腕は掴んだままだ。
 その腕が、少し震えているように感じた。
 その震えを気の毒に思いながら、わたしは興奮もしてしまっていた。
 罪深い女だ。容赦なく罰を与えてもらいたい。
 車内からアナウンスが聞こえてくる。まもなく、駅に到着するとのことだ。
 わたしがぎゅっと腕を掴むと、男性の腕がビクリと震えた。
 肉の壁が、乗降口に向かって、ざわと動き出す。
 わたしとその哀れな男性も、その波に乗って、動き出していた。


 電車から降りて、五分ほど男性と歩き続けた。
 掴んでいる腕を自分の胸元に引き込んで、傍から見れば恋人同士のように見えるかもしれない。
 実際は、電車内で一目見ただけの男で、わたしと何の関係もない。
 歩いている間、男性は腕を振りほどいて逃げ出したりはしなかった。 
 人混みの中で逃げにくいし、逃げてもわたしに大声を出されたりしたら不利だと考えたのだろう。
 わたしも、そういう理由で逃げられにくいと思って、ここで降りることにしたのだ。
 男性は小さな声で、僕はやってないんだと呟き続けている。

 しばらくすると、駅に隣接する立体駐車場の中に入った。
 先ほどの人混みが嘘のように、中は静まり返っている。
 その駐車場の、さらに奥まった場所を目指して、わたしは歩き出した。


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